「たった3年で何がわかる」という批判
乙武 それで、この貴重な経験を活かして次のステップに進みたいと思っていたところ、2013年2月に東京都教育委員に就任してほしいとの打診がありました。これは現在の任命制になってからは史上最年少、30代での就任は異例中の異例とのこと。身が引き締まる思いでしたが、今度は行政面から教育を変えていくアプローチができればとお引き受けしました。
松田 現場を経験したからこそ、わかることってありますからね。
乙武 でも、様々な批判を受けます。特に多いのが「たった3年で何がわかる、何が語れるんだ」というもの。ですが、僕はまったく逆のことを思っています。「3年間も本気で取り組んで何も語るべきことがないなんて、いったいどんな仕事ぶりなんだ」と。それはよほど生半可な気持ちで取り組んでいたか、よほど能力が低いかのどちらかでしょう。
もちろん、長くいるほど経験値が上がって、見えてくるものもあるでしょう。でも、情熱をかたむけて本気で取り組んだ3年間でも、解決すべき課題は見えてくるはずです。
松田 確かにそうです。ティーチ・フォー・アメリカ(以下、TFA。詳細は前回を参照)の事例でいえば、教師経験を2年間経験した後の、その3割は民間の企業に転職します。転職先はアップル、グーグルなどの有名企業、投資銀行やコンサルとさまざまです。
でも、そういった人たちは、困難な教育現場を知っているからこそ、企業から資金提供や、iPadのような勉強ツールの提供などで、教育支援をしたりするんです。また行政に入る人も多く、TFA出身者がワシントンDCの教育局長になった例もあります。この場合は行政から、予算配分などで教育改革を働きかけている面もある。
つまり問題を解決するには、教育現場だけでなく、いろいろな立場から「教育を変えていこう」という共通の認識があって、それが少しずついい方向に変わっていくんですよね。
日本の教育の息苦しさと
見えない問題
乙武 僕が小学生だった頃の教育は、画一的で同じ部品をいかに効率よく大量生産できるかというものでした。時代がバブルだったから、そうした人材が求められていたのだと思います。がむしゃらに24時間でも働けるような。でもそのバブルがはじけて、ようやく最近になって画一的な人材ではなく「個性が大事」ということが言われるようになった。
ただ、個性が大事だと頭ではわかっても、実践が難しいんですよね。具体的にどうしていいのかわからないという、現場での戸惑いを感じます。そのあたりが大きな問題であり、息苦しさにつながっているのかなと思っています。
松田 確かに21世紀型の教育が叫ばれて久しいですが、なかなか実現できていないのが現状ですよね。