ゴリラ、世界を制す

 世界のスマートフォンのディスプレイ表面は、過半がコーニング製で名前をゴリラ・ガラス(Gorilla Glass)といいます。

 割れにくく傷つきにくいということでiPhoneやiPadのカバーガラスとして採用され(*1)、以降、旭硝子のドラゴントレイル(Dragontrail)の追撃を振り切り、首位に君臨しています。年間の売上高は1000億円以上で、高い収益率を誇ります。

 でも、もともと「用途不明のガラス」でした。“Project Muscle”と銘打って1950年代末から数年掛けて開発はしたものの、その完成した強化ガラスは大きな用途を見つけられないまま、細々と航空機用や自動車レース用に使われていました(*2)

 2006年、初代iPhoneを開発していたアップルは「スマートフォンのディスプレイ表面は鍵より硬くなきゃダメ」と気がつきます。ポケットに一緒に入れると中でぶつかって、ディスプレイが傷つくからです。

 いわゆるビッカース硬度(単位はHv、値が大きいほど硬い)でいえば、硬貨が45~170、鍵のようなものだと200に達するものもあります。高級自転車のフレームやM16カービン銃の銃身にも使われるクロムモリブデン鋼(クロモリ鋼)で300~400といったところ。

 この強化ガラスのことを聞いたジョブズは、コーニングのCEOを(無理やり)説得してiPhone向け量産を決意させます。2007年6月、初代iPhoneとともにゴリラ・ガラスはこの世に再デビューを果たしました。ビッカース硬度622~701。鍵どころかカッターでも「刃」が立たない、最強のスマートフォンの誕生でした。

上の写真は傷ついてしまったSHARP IS03

 本当か? と思って、自分のスマートフォンでもやってみましたが、本当にカッターでも傷つきませんでした(*3、やるときは自己責任で!)。

 

 


*1 公式には肯定も否定もされていない。
*2 もともとは乗用車のフロントガラスなどの用途を狙ったが、高コストすぎて採用されなかった。
*3 HTCのJ ISW13HT。ちなみにSHARP IS03でやったら見事に傷がついた……。