セミマクロの視点から見る成長戦略

前回まで10回ほどにわたって、日本の成長戦略についてマクロ経済の視点から考察してきた。そこでカギとなるのは、TFP(全要素生産性)と呼ばれるものであった。TFPを高めることなく日本が持続的成長を実現することはできない。そのためには何が必要なのかを検討してきた。

 今回からは、この成長戦略の話をセミマクロのレベルに広げたいと考えている。具体的には、日本が経済成長を実現するとしたら、個々の産業がどのような姿になっていくのかということだ。

 私たちが観察する現実の経済は、なかなかマクロでとらえることが難しい。マクロでとらえた経済は、生産性やGDPという数字の話になりがちである。もちろん、そのようなとらえ方も重要である。木を見て森を見ずになってはいけないからだ。ただ、具体的な成長のイメージを抱くためには、いろいろな産業でどのような変化が起きるのかという点にまで考察を広げる必要がある。これがセミマクロの視点である。

 日本が持続的な成長を続けることができるとすれば、それに応じて個々の産業の姿も変化していくはずだ。多くの場合、それは創造的破壊というかたちをとる。つまり既存秩序を壊して新しいものが生まれてくるのである。

 成長戦略において、規制緩和や市場開放の重要性が強調されるのも、まさにこの創造的破壊が重要であるからだ。既存の利害関係者は、どうしても新しい変化に抵抗しようとする傾向がある。しかし、そうした既存の秩序だけを守っていては、経済はジリ貧にならざるをえない。社会全体として変化を受け入れる必要があるのだ。そうした変化が、いろいろな産業でどのように起きるかを考えるのが、以下で展開するセミマクロ視点での考察である。

成長のための最重要分野は医療・介護

 個別分野の変化の考察の対象として、ここではまず医療・介護の分野から取り上げることにしたい。高齢化が進むなかで、雇用の規模でも付加価値の大きさでも、この分野が最大の産業であることは明らかだ。医療や介護が産業としてどのように変化していくのかは、日本経済全体の成長戦略にも深く関わってくる。

 誤解がないように付言するが、ここで医療や介護を産業と呼んだときに、けっして営利行為だけを意味しているわけではない。非営利行為であっても、労働や資本などの資源を利用して活動するものはすべて産業に含めることにする。日本には限られた労働や資本しかない。それをいかに有効に活用するかが資源配分の効率性ということである。多くの雇用や資金を利用する医療や介護は重大な産業である。この分野で資源配分の無駄が大量に発生するようだと、経済全体の成長力も低下することになる。