昨年11月20日、公的年金など、公的・準公的資金の運用・リスク管理の高度化を検討する政府の有識者会議(座長:伊藤隆敏東大教授)が最終報告書を公表した。日本には、公的年金・独立行政法人等の公的・準公的資金の保有する金融資産が200兆円以上存在するが、その資金運用について初めてメスが入ったことになる。公的年金などの資金運用が変われば、日本の産業構造の変革、コーポレートガバナンスの変革を成し遂げる起爆剤となり得る。

公的年金等の戦略的運用こそが産業政策

 この有識者会議は、安倍政権の「第三の矢」である「民間投資を喚起する成長戦略」として策定された「日本再興戦略」(昨年6月)の中で「公的・準公的年金の運用等の在り方について検討を行なう」とされたことに従って設置されたものである。遡れば、もともとこの提言をしたのは自民党の日本経済再生本部であり、筆者も昨年4月初め以来、同本部の部会に何度か招かれ、議員の方々や厚生労働省をはじめとする関係各位と議論をしてきた。その結論を踏まえて政府が動いた結果、今回の最終報告書に至ったのである。

 以下にまとめる報告書のポイントは、いずれも画期的なものであり、筆者は、これこそが安倍政権の「第三の矢」の中でもひときわ費用対効果が高い、優れた施策であると考えている。

 事実、この報告書を踏まえて昨年12月に政府が取りまとめた「好循環実現のための経済対策」の中の「競争力強化策」の項でも、「公的・準公的資金の運用等の見直し」が具体的施策として一躍脚光を浴びることになった。公的年金を所管する厚生労働省の伝統的な見解に従えば、「公的年金の運用と経済対策は別モノ」ということになるのであろうが、そうではなく、これが産業政策そのものであることは、政府が「公的年金の運用見直し」という施策を「競争力強化策」に入れたことで明確になった。

 公的年金等の戦略的運用こそが産業政策、ひいては国家戦略の鍵を握っていることについては、既に連載34回で詳述したが、今回の措置により、日本も、数十年遅れで、漸く欧米並みの考え方に近付くことになる。このことが及ぼす影響は、目先の「株価の下支え」などという小さなものではなく、最終的には、新たなリスクマネーの担い手(投資家)の出現によって銀行中心だった日本の産業金融を変革し、また、こうした新たな投資家が主導するコーポレートガバナンスの改善を通じて、旧態依然とした既得権益の壁を打ち破り、日本の産業活性化にまで繋がるものである。