写真 加藤昌人 |
表象文化論は、「表象」(イメージ)を起点として文学、芸術から政治、ポップカルチャーに至るまで現代社会のあらゆる文化を学際横断的に批評し、文化の生産過程に創造的フィードバックを与えようと試みる新たな学問領域である。
蓮實重彦らが生み出したこの知のフロンティアで活動する若きリーダーの一人である田中純は、『都市の詩学』において古今東西の建築・文学・写真・美術・映画などを縦横無尽に論じながら、自己経験的な観念論に陥ることなく、緻密な実証的手法によって分析し、都市に表出する文化の歴史的基層を掘り起こそうとした。
12月に刊行された『政治の美学』では、博士課程時代からテーマとして追い続けてきた政治的暴力と審美主義のあいだに横たわる同性愛的な情動の論理を、三島由紀夫やデイビッド・ボウイらに触れながら解明しようとする。挑発的な知の実験者である。
(ジャーナリスト 田原 寛)
田中 純(Jun Tanaka)●表象文化論研究者 1960年生まれ。85年東京大学教養学部卒業、92年ドイツ・ケルン大学留学、93年東京大学大学院総合文化研究科博士課程中退、95年より東京大学准教授。『アビ・ヴァールブルク 記憶の迷宮』(2001年)でサントリー学芸賞、『都市の詩学』(07年)で芸術選奨文部科学大臣新人賞。