自分や自国の良さ、強みを知ることが
グローバル人材育成につながる

松田 グローバル人材について語るときに、もう、西洋の価値基準はやめたほうがいいと思うんです。それは私がハーバードに留学したときに感じたのですが、アメリカのような多民族国家だと、結果がすべてです。いろいろな考え方ややり方があって、プロセスが評価できないので、唯一公平に見られるのは結果だからです。でも、日本の場合って、プロセスを重視するじゃないですか?

 確かにそうですね。

松田 そこが強みだと、留学したときにそう思ったんです。向こうへ行ったばかりのときには「結果がすべてだから、いいものを作って勝たなきゃ」と肩に力が入っていました。でも、自分の受けてきた教育の価値をチームの中で発揮していたら、すごく感謝されたんですね。たとえば、ほかの人たちはみんな持論の主張ばかり。それで、チームの中で、俯瞰してみるとか、空気を読んで「こういうことを言いたかったんじゃない?」とか「それもわかるよ」と共感したりして、チームの調整役になることで、居場所を見つけられた。

 確かに「海外で勝つ」というのは「結果」を重視する文化。日本人の強みとは相容れないかもしれないですね。グローバルで勝つではなく、共存とか貢献する方向で考えていく方がいいと私も思います。そして、そのリソースが、そもそもの日本文化の中にあると感じています。

 グローバル人材というと、まず英語が頭に浮かぶかもしれませんが、それ以前に何が大事かを考えたときに、自国の文化(アイデンティティ)が確立しているということだと思います。

松田 自分の国の文化ですか?

 ええ。文化や伝統の底にあるものを理解し、誇りを持って語れるかということです。その大切なものが伝わっていないことがもったいない。例えば、年中行事など、今は日常的な日本文化が家庭内で伝わっていません。そこで、本校では総合学習の時間を使って礼法、華道、茶道、着物の文化と着付けの4つを生徒全員が1年半かけて学んでいます。

松田 全員ですか?

 はい。そういったことを学ぶと「夏の着物は、自分のことより、相手の目からみて涼しげなことが大切」とか、茶道のときに「お茶碗を回す」というのも、すべて相手の立場にたって考えるからだ、ということがわかります。

 お茶碗を回すというのは、単なる決まり事ではないんです。もてなす側が、お客様にお茶碗のいちばんきれいな正面を向けて差し上げて、お客様のほうでも、きれいな部分をよく見てから、そこにそのまま口をつけるのではなく、その茶碗を回して違う部分から飲む。つまり、日本文化とは、常に相手やものに対する気配りがある文化だということがわかってくるんですね。

松田 なるほど。

 子どもたちがそうやって自分の国の文化や強みを知っていて、そこに発信力とかプレゼン力がついてくると、グローバル人材として育ってくるのではないでしょうか。実際にこうした授業のあとは、海外の留学生から、「日本人はあまり積極的に意見を言わない」と言われても、「それは和を重んじているからだ」とか「基本的に個人よりもチームのパフォーマンスを重視をしているからだ」などと、自分なりの意見を言えるようになってきます。

松田 ちゃんと意見が言えるんですね。

 まずは日本のいいところは何か、そこがわかっていることが「自己肯定感」を高めると思います。国際社会の中で様々なバックグラウンドを持つ人と協働していくには、まず、自分に対する共感がなければ始まりませんから。