父の死刑回避を願う自分を、母は許してくれるのか

開沼 一番印象に残っている質問は?

大山 答えようがなかったのが、「もし寛人さんがお母さんの立場だったら、今の寛人さんを許すことができますか?」と。その質問が一番つらかったですね。つまり、僕が殺されたお母さんだったら、お父さんの死刑を望まない息子をどう思いますかと聞かれたんです。答えに困りました。

開沼 なるほど。何て答えましたか?

大山 「自分の都合よくは考えたくありません」と答えました。僕のお父さんに対する恨みや、死刑になってほしくない、生きて罪を償ってほしいという思いと、お母さんに対する罪悪感というのは常に平行線上にあるんです。それでワンセット、板挟みの状態です。

 お母さんがかわいそうという思いもあるし、お母さんを殺したお父さんの死刑を願わなくてごめんねという気持ちも、お父さんのことばかり相手にしている罪悪感もあります。でも、そういうものに挟まれているからこそ、心身のバランスが取れているんですよ。

 お母さんがどう思っとるのか、聞くすべはないし、わかりません。ただ、きっとお母さんは僕のことを許してくれるだろうと自分に都合よく考えちゃうと、お父さんのことだけを考えている自分になってしまいそうで、心のバランスがおかしくなります。お母さんに対する罪悪感は、これから先もずっとつきまといますし、涙が溢れるくらいつらいですね。

開沼 いろいろと真摯に話していただきありがとうございました。

大山 ありがとうございました。


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