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2030年のビジネスモデル

患者の臓器を精密3Dモデルに――手術の成功率を高める医工連携の立役者

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第15回】 2014年2月13日
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 「使命感のある仕事は人を集中させる。良い事業に巡り会えた」と竹田さんはしみじみ語る。

 この素晴らしい医工連携は最初からスムーズに進行したわけではなかった。

 竹田さんによると、医療とその他の領域とのコラボレーションには目に見えないデバイドがある。それは技術的な壁ではなく、医師とのコミュニケーションの壁である。英語3文字の医学用語がバンバン飛び出す中、医療に関する知識や経験のないエンジニアは、質問すると怒られたり、そんなことくらい勉強してから来いという空気になったりするので、自ずと萎縮してしまう。

 コラボレーションが軌道に乗ったのは、自信作となる心臓レプリカの試作品を医師の元に持っていったときからだった。外科の先生は、手で触って本物を判断する。「おお、これはいい!」、「ようできとるわ、凄いなあ」、「あんたたちもプロフェッショナルだな」……医師とエンジニアとの間に相互の尊敬と信頼が生まれた瞬間である。

 「複雑心奇形のモデルは今まで見たことがない」と医師は驚く。しかも本物の心臓は、ここまで切って内側を覗きこむことなど不可能である。感嘆の声が漏れる。クロスエフェクトの心臓モデルは、今まで助からなかった命が助かる可能性を切り拓いたのだ。ある患者から、クロスエフェクト宛てに手紙が届いた。「私を生かしてくれて、ありがとう」

 心臓以外の臓器の3D高速試作ももちろん可能である。心臓は最も難しく、象徴的な意味があるため最初にプロジェクトとして選んだまでだ。日本のモノづくり技術は、それを支える人も含めて、やはり凄いと感じる。精密、高速、超難度の加工技術を持つ日本のモノづくりと、人の命を救う医療。このコラボレーションが生み出す新製品・新技術の創出力は、世界中を見渡しても極めて限られた国にしかできないものである。未来の日本の競争力と存在感を構想するとき、今一度注目し重視すべき領域ではないだろうか。

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齊藤義明
[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

2030年のビジネスモデル

未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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