前回は、再雇用のあり方を職務開発の視点と関連付けて考えた。再雇用は大事だが、シニアを雇用弱者扱いせず、生産性や組織活性化に寄与するような働く場を生み出すことが大切だというのがその結論である。連載第10回となる今回は、シニアの戦力化と定年前後社員のやる気を考えてみたい。今回も日本マンパワーで開いている「ミドル・シニアのキャリア問題研究会」での意見等も紹介させていただく。
管理職経験の長い50代シニアは
現場を忘れた“型落ちベテラン”に
シニア活用の課題が本格化するのは、役定・定年後の再雇用段階からだ。だが、この段階から打てる手は、勤務態度や仕事に向かう姿勢を外から注意することくらいだろう。生産的な働き方を期待するなら、もっと早めに、能力・意欲・行動を次の再雇用時の仕事や成果期待に応じたものに“仕様変更”しておく必要がある。
50代シニアの多くは管理職経験が長い。今後の役定・再雇用等で働き方が変化することはわかっていても、管理職ポストにあるうちは、役定など“不都合な変化”への準備を避けたがる。この結果が、定年前OB化・定年後腰掛け仕事など様々な問題の働き方を生むことになる。
効果的な対策としては、これらの予防措置を兼ねた、事前のシニア戦力化対策が望まれる。以下の【図表-1】を見てほしい。問題ある働き方は、役定・定年のゴールが見えたあたりから始まる。放置しておくと定年前後に問題の多い働き方となる(C⇒C’)。
打つべき対策はまず、役定・定年のゴール前に、その後の定年まで、そしてその後の再雇用を意識した現有能力・意欲の維持向上を図り、当座の戦力ダウンを防ぐことだろう(B⇒B’)。つまり、定年後仕事への能力・意欲の仕様変更だ。対策のねらいは陳腐化した専門能力と、低下気味の仕事意欲を維持・向上させることにある。
そしてこの対策が定着した後、60歳以降も職場で必要とされる知識やスキルを持続的に習得しながら、仕事能力を向上させる生涯能力戦力化対策を講じる(A⇒A’)ことだ。
◇スキルが陳腐化した「型落ちベテラン」に
50代シニア、とりわけ管理職者の再雇用時の問題は、現場プレーヤーとしての経験・スキルの陳腐化だろう。長く管理職をやっているうちに、次第に「管理の人」になってしまい、本来の現場での仕事捌きや判断力が鈍っていく。また、いくつか職場や仕事が変わっても、組織管理中心の仕事が多いため、第一線業務からは遠くなり、現場実務は「知っていても、できない」ものが多い。管理者の多くは、一頃いわれた「OKY」:おまえ、ここで、やってみろ、にたじろぐ。
つまり、現場実務ができるといっても、その多くは、昔のカラオケヒット曲のような「型落ちベテラン」になっていることが少なくない。50代シニアの定年後活用の戦力化は、まずこの現有能力の再戦力化=陳腐化した現場の仕事能力の再生から始めるべきだろう。前図のC-C’の下降を現場スキルの補強によりB-B’のラインで留めることだ。