一緒にお茶を飲むことが重要なケースもある
私はこれまで、1ヵ月以上現地に滞在して、コンサルティング業務を行ったオフィスに限っても、オスロ、ヘルシンキ、パリ、デュッセルドルフ、フランクフルト、ドバイ、シンガポール、香港、上海のオフィスで働いてきました。より短期の滞在ならば、もう覚えていないぐらい多くの地域を訪れています。
そこから見えてくるのも、実際のところ、それほど厳密にMECEやストーリーライン、ロジックツリー、スライドの白黒にこだわっていないコンサルタントも世界には相当数いるという事実です。
それはなぜでしょうか?もちろん、意味がないからです。
たとえば、私が経験したフランスのあるプロジェクトでは、どちらかというとパートナー(上級のコンサルタント)と経営陣の議論を重視しているようなイメージを受けました。そうなると、ミーティングに持っていく資料は、パートナーが話したいことをサポートする資料や、議論のネタになる資料が中心です。全体のメッセージや提言などまったくない場合も多々ありました。
要するに、そのクライアントは、有能な討議の相手としてマッキンゼーを評価しているのであり、提言やストーリーに基づいた分析のフローよりも、経営会議の現場の議論で編み出される選択肢や、今後の計画の質を高めることを重要視していたのでしょう。そうであれば、コンサルタントの仕事は、白黒のチャートを作ることではなく、クライアントと議論するという行為そのものになります。
また、中東のプロジェクトでも、もちろん根底に流れる事実ベースの分析やそれに基づいた提言も重要ではありましたが、クライアントの重要人物の好みや趣向、意向を理解することに重きがおかれていました。
そうすると、実は、スライドを作ることではなく、一緒にお茶を飲むことが重要になります。つまり、摺り合わせです。
正しい方向性は無限大に存在しますが、その組織の重要人物の適性や、未来像に資する方向性は限られます。そのときは、それを理解して、頭の中で理解することが、白黒のチャートを作ることよりも重要な行為となりました。
もちろん、その逆もあります。
ドイツのプロジェクトでは、社内で「German chart」と称されるように、かなり細かい字で、厳密なスライドを作りました。その点、東京のオフィスはドイツと同じような性格と見なされているようです。もともと東京からやって来た私も、東南アジアに行ったときには「マサ、その『German chart』をなんとかしてくれないか……」と苦言を呈されたことを覚えています。