マッキンゼーで身につけた本質を見抜く力

 それでは実際に、マッキンゼーのパワーポイントのスライドは白黒なのでしょうか?

 もちろん、基本的にはそうであったと記憶しています。東京オフィス以外の世界の別の地域でも、むやみに色彩やアニメーションを使うことはあまりありません。

 しかし、私が経験した海外のプロジェクトでは、白黒どころか写真やアニメーションをふんだんに使うプロジェクトがいくつかありました。さらに言えば、マッキンゼー的な手法はすべて捨てて、クライアントの作り方やスタイルに完全に合わせたスライドを量産するプロジェクトも、とくに珍しくはないのが事実なのです。

 それはなぜでしょうか?

 理由は単純で、そのほうが、1. 見る人が適切にストーリーを理解できる、2. 自分やチームが意味合いを討議・検討しやすくなる、3. 作成時間が最小限となり、あいた時間を分析に回せる、ことがあり得るからです。

 スライドの作成には、「それを聞く人を説得し、行動してもらう」という根源的に達成したい目的があります。従って、白黒でないほうがよければ、白黒ではないスライドを作るべきだと言えます。そして、コンサル的な手法を捨て去ることで目的を達成できるのであれば、それは迷わずに捨て去るべきなのです。

 実際、スライド作成をはじめとして、コンサル的な手法にこだわらないことは、最終的に、クライアント企業に長期的なインパクトを実現できるプロジェクトでは多く見かけます。

 たとえば、営業の現場の生産性を改善する施策を立案し、それを数千人の愛社精神あふれる営業の方々に実行いただく際に、その説明資料をいわゆる「マッキンゼー的な」資料にすべきなのでしょうか。

 チームメンバーは全部で15人。そのうちの12人がクライアントの生え抜きで、優秀かつ将来を嘱望された幹部と幹部候補生であり、彼らには彼らなりの資料作成の作法があったとします。社内資料はすべて、A3用紙の1枚に収めてプレゼンテーションをする文化でした。

 そのとき、残りの3名のコンサルタントは、自分たちのやり方を彼らに実践してもらうべきかは、よく考える必要があります。

 経営陣に対する全体像の説明に関しては、もちろん「マッキンゼー的な」資料でよいのかもしれません。しかし、もっとも重要な、部課長クラスの方々に理解いただくための資料は、A3用紙1枚で、彼らが十数年以上に渡り慣れ親しんできた資料形式のほうがよいのではないでしょうか。

 究極のところ、マッキンゼーという会社は、「白黒」や特定のスライドの形式にこだわっているわけではありません。こだわっているのは、クライアントに価値を提供することであり、その価値の本質とは、マッキンゼーが関わることによって、事業によい方向の変化が起き始めることなのです。

 それができるのであれば、何も「白黒」である必要はないでしょう。