9月24日、証券最大手の野村ホールディングスが、今年2度目の公募増資を行なうと発表した。最大で5000億円にも及ぶ規模で、株主価値は約22%希薄化する見込みだ。

 野村は3月にも約2779億円の普通株増資を行なっている。わずか半年後の増資発表に対し、既存株主は「2回で68%もの希薄化。本来、事業会社がそれほどの希薄化を招く増資を行なう際には、発行を抑止するのが証券会社ではないのか」と、怒りを隠さない。

 今回、このタイミングで巨額増資を決めた理由について、野村は「国内のITインフラ投資や米国におけるビジネス基盤を強化することに加えて、九月のG20(20ヵ国・地域財務相・中央銀行総裁会議)で議論された金融機関に対する新たな資本規制導入への対応」と説明する。

 9月29日に機関投資家を集めて行なった説明会で、渡部賢一社長は「米国での投資銀行業務の拡大を明言した」(関係者)という。資本規制についても、増強を迫られるとの予想から、投資家の余力のある今のうちに、というわけだ。

 とはいえ、現時点では普通株を中心とするTier1(中核的自己資本)比率は12.7%と、最低基準として示された4%を大きく上回る。「希薄化の上限は3割というのが暗黙の了解で、今回はそのギリギリの水準」と複数の関係者は指摘するが、それでもわずか半年で7割近くに上る理由としては、説得力に欠ける。

 どうも別の理由がありそうだと別のある大手証券幹部は語る。「今後発生しうる損失に備えて、資本がどうしても必要だった」(幹部)というのだ。

 欧州ではリーマン・ブラザーズの事業承継の成果が表れ始めており、顧客基盤も拡大。顧客が増加すれば、自己勘定で抱えるトレーディング資産も拡大させる必要がある。

 それに伴い、100営業日に1日の頻度で発生する最大損失額を示すVaRは、今年6月末時点で134億円と、9ヵ月前に比べて約2倍、資産規模で約4倍の米証券大手ゴールドマン・サックスと比べても約半分にまでふくらんだ。つまり、かなりのリスクを取るビジネスに舵を切っているのだ。

 しかし、一方の収益を比べると、野村のトレーディング収益(債券・為替)は約1000億円とゴールドマンの約7分の1にとどまっており、リスク規模に見合った収益が上がっているとは言いがたい。

 増資発表を受けて、翌日の株価は急落、前日比108円安の573円まで下げた。少なくとも直後の市場は、前向きにとらえていない様子だ。

 グローバルプレーヤーとして戦っていくため、今後は総資産を約2倍の55兆円にまで拡大させる構想もある模様。だが、収益で「結果」を残さなければ、投資家を納得させることはできない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 池田光史)

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