カネとヒトの関与で疑惑
医師への利益供与の疑いも

 CASE-Jのデータ管理や解析を担い、一連のグラフを作成したのは京都大学にある京大EBM研究センターだ。同センターにとって、武田は約25億円もの資金を提供してくれる大スポンサーだった。その武田の成長を支えてきたのがブロプレス。2012年度に日本国内だけで1340億円も稼いだ。

 もっとも京大EBMセンターでは、ほとんど業務を行っておらず、主な業務や計画は、武田の社員に丸投げし、医薬品開発支援会社のシミックとともに行っていたという疑惑もある。CASE-Jについての計画から発表までの経緯をまとめた「CASE-J物語」(先端医学社)という本が出版されており、同書の中に、その武田の社員が「システム構築に関して実質上責任者」であり、「シミックと組もう」と発言するくだりがあるのだ。

 その社員は06年に学会発表が終わった後、07年3月に武田を退職し、京大EBM研究センターに移籍。08年にハイパーテンションで発表された論文には、京大EBM研究センターの職員の肩書きで掲載されている。利益相反についての記述もない。

 武田はその社員について「ウェブ登録やシステムの使い方などのサポート担当者であり、システム構築やデータ管理・解析には関わっていない」とし、CASE-J物語の記述についても「ライターが周囲のリップサービスを真に受けて、誇張気味に書いたもの」と説明している。

 この臨床研究では、誇大広告に対する医師への利益供与も疑われている。講演料や指導料、原稿料、奨学寄附金などの名目に変わっていたとしても、利益供与そのものであり、贈収賄と取られかねない。金額は、大学や医師の格や宣伝への貢献度に応じて異なっているという。こうした癒着があれば、ノバルティスの論文不正問題と同じ構図といえる。

 武田の長谷川閑史社長は、“誠実”であることを「タケダイズム」と称し、会社の基本精神として強調してきた。

 武田OBによると、武田は天明元年(1781年)に大阪道修町で和漢薬の仲買人として事業を始めた。和漢薬を小分けするときに決して秤の目盛りをごまかさない、正直な商いが評価されて業績を伸ばした。江戸時代後期から明治にかけて、効き目が強い西洋薬を取り扱うようになってからは、副作用に気を使い患者の安全性第一を優先する商いを続けた。長い伝統のなかでタケダイズムは培われた。

2008年の論文を見ると、左のブロプレス患者群は、右の対照薬のアムロジピン患者群に比べ、より多くのクスリが投与されている Photo by T.Y. 拡大画像表示

 CASE-Jの結果に戻ると、脳卒中や心筋梗塞などを防ぐ効果において、二つのクスリに有意な差はなく、効果は同等という結論だった。つまり、引き分けだ。さらに詳細を見ると、アムロジピンを投与した患者群に比べて、ブロプレスを投与した患者群には、利尿剤やベータ遮断剤など別の種類の降圧剤が投与されているケースが多い。桑島巖・臨床研究適正評価教育機構理事は「ブロプレスは他の降圧剤を併用しないとアムロジピンと同等の降圧効果が得られなかったということだ」と解説する。

 見かけ上は引き分け、実質的にはアムロジピンに負けていたのに、CASE-Jのパンフレットは、そんなことをうかがわせない。誠実さよりも、巧妙さが際立つ作りだった。

 ディオバン不正論文問題でノバルティス ファーマは当初、データ解析への社員の関与を否定していたが、後に社員の関与が明るみになった。同社は1月、誇大広告を禁じた薬事法に違反する容疑で、厚生労働省から東京地検に刑事告発された。

 疑惑が噴出する武田も同じ道を歩んでしまうのか。タケダイズムにのっとり、早急に誠実さを持って真相究明に乗り出すことが求められる。

※次のページでは、疑惑を告発した由井芳樹・京大病院医師への独占インタビューをお届けします。