性差医療という言葉がある。1980年代に登場した概念で生殖器の疾患以外でも男女の“性差”に配慮した医療を指す。
例えば、心筋梗塞は男性なら30代以降に発症数が増えるが、女性は閉経後の60代以降。男女の発症率が等しくなるのは70歳を過ぎてからだ。心疾患のリスクとなる高血圧症や脂質異常症、糖尿病の発症にも男女差がある。
しかし、従来の治療戦略はすべて「男性モデル」に基づいてきた。それでよいのか? という疑問が出てきたのが80年代。そして今年、米心臓学会と米脳卒中学会から初めて「女性のための脳卒中予防ガイドライン」が発表された。
ガイドラインでは、女性特有のリスクとして第一に「妊娠」を挙げている。妊娠中に高血圧症候群を起こし、腎障害(妊娠高血圧腎症)を経験した女性は、中年期以降の脳卒中リスクが2倍、高血圧症リスクが4倍に上昇する。既往がある女性は、喫煙や脂質異常症など、その他のリスクを速やかに改善するよう推奨された。このほか、低用量ピルの内服に喫煙と高血圧が重なった場合や、前兆を伴う片頭痛持ちで喫煙者の女性は、脳卒中リスクが高い。
一方、日本で女性に着目した研究を探すと、昨年秋に飲酒と脳卒中の関連を調べた国立がん研究センター(国がん)の研究成果が発表されている。健康な40~69歳の女性を対象に17年間にわたって追跡調査したもの。「週に日本酒で2合以上(アルコール換算300グラム)を飲む」女性は、「時々(月に1~2回ほど)」という女性に比べ、脳出血の発症が2.85倍、脳梗塞の発症が2.03倍に増加するという結果が出ている。
同じ国がんの男性を対象とした研究では「1日2合程度」、週ではない──の飲酒で、脳出血が「時々」の2.09倍、脳梗塞は変わらず、という結果だった。「1日3合以上」では脳出血の発症は2.51倍に上昇するが、脳梗塞は1.12倍だった。男女の差はこれほど大きいのだ。
妻に長生きしてほしいけど、夫婦で酒好きなんだな~という旦那さま。この際、女性に合わせた適量を心がけてはいかがでしょうか。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)