日本のIT企業による「YouTube包囲網」が始動した。

 4月7日、ヤフーはUSENの100%子会社で動画配信サービスを提供するGyaOの発行済み株式51%を取得すると発表した。

 両社の動画サービスの利用者はYahoo!動画が1100万人、GyaOが650万人で国内トップクラス。ライバル2社のサービスが年内にも統合される理由は、「打倒YouTube」にある。

 米国グーグル傘下にある無料動画配信サービスYouTubeの日本での月間視聴者数は1500万人を超えるといわれている。しかし、著作権保有者に無断で違法に配信されているテレビ番組なども多く、問題視されている。

 一方、ヤフーやUSENのほとんどの番組は有料で調達しているし、著作権保有者との交渉や、オリジナル番組の制作なども行なってきた。時間とおカネのかかるやり方だ。これを広告料で補うモデルだが、今のところ赤字続きだ。

 それにもかかわらず、利用者数から判断すれば、支持されているのはYouTubeといえる。正直者がバカを見ているわけだ。

 7日の会見で、赤字の原因を聞かれた宇野康秀・USEN社長が「違法なコンテンツとはコスト構造が違った」と恨み節を漏らせば、井上雅博・ヤフー社長も「著作権を尊重する」とYouTubeを意識するような発言が続いた。

 ヤフーやUSENの関係者は今回の統合によって、テレビと広告業界関係者の姿勢が変化することにも期待しているという。

 これまで「動画配信といえばYouTubeで、しかも違法」というイメージだったのが、今後はテレビ局も統合した両社の存在感を無視できなくなる。

 権利を守る姿勢にテレビ局が共感すれば、最新の人気ドラマや高視聴率のお笑い番組など有力な番組を提供することも期待できるという。ネットの動画サービスでも「やはり人気なのはテレビ番組」(ヤフー関係者)なのだ。

 両社の目論見は、人気番組の配信によって利用者を増やし、動画配信への広告提供の本格化にも弾みをつける、というものだ。

 しかし、その狙いには根本的な欠陥がある。2社が統合しても、YouTubeの違法配信はなくならないということだ。仮にテレビ局が人気番組を提供しても、YouTubeで同じ番組が違法に配信されてしまえば元も子もない。

 現状では、ヤフーとUSENが著作権の保有者や管理団体などと組み、YouTubeに抗議していくような予定はないという。

 ライバルの違法コンテンツが成長の足かせになっていることに気づいてはいるが、できることは少ない。視聴者の良識に期待し、さらにライバルが違法動画を削除してくれるのを待つという、ヤフーとUSENにとって隔靴掻痒の戦いが続くことになりそうだ。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  清水量介)