もちろん、そのような居住施設は「レッテル貼り」の対象となるだけではない。類似の背景を持つ人々が集中して居住する場からは、多様性が失われる。良くも悪くも、人々の抱えている問題が増幅された形で表面化する。それは、問題の解決を容易にすることもあるかもしれない。問題が表面化しやすくなるからだ。しかし、そこに住む人々は、同じような問題を抱えているのである。自分たちの力での解決を計ることは困難であろう。もし解決できるのであれば、「自助」により解決できているはずだからだ。もし「自助・共助・公助」の「共助」を求めるのであれば、そこには多様な人々がいる必要がある。単純ではない問題を解決するには、異なる能力・異なる知恵を出しあえる状況がなくてはならないからだ。

 日本の公営住宅は、長く「同じような年齢構成、同じような背景を持つ人々」による温和なコミュニティを供給する場であった。現在それらの公営住宅は、同じように高齢化の問題を抱えた人々が多く住む場となっている。体力が失われつつある高齢者どうしの助け合いに、多くを期待することはできないであろう。

 とはいえ、多様性を長年にわたって維持することは容易ではない。多様性を維持するための何らかの政策や公的介入が、どうしても必要になってくる。

公営住宅供給と家賃補助
どちらが正解に近いのか?

ニューヨーク市の住宅問題のために活動する「Housing First!」のWebサイト。具体的かつ実現可能な政策提案を行い、ニューヨーク市の住宅政策に大きな影響を与えてきた。住宅政策のみならず、路上生活者など立場の弱い人々のための権利擁護活動も展開している

 2001年、ニューヨーク市で「Housing First!」が結成された。経済学者の横田茂氏によると(参考:http://www.kansai-u.ac.jp/Keiseiken/books/sousho143/143_07.pdf)、住宅開発業者・コミュニティ組織・宗教団体・市民団体・労働組合など住宅政策に取り組む多様な人々による連合体である「Housing First!」は、

(1) 市内のほとんどすべての所得階層に持家住宅を取得する新たな機会を創り出す
(2) 勤労世帯に手に入りやすい良質な住宅を創り出す
(3) 市政府が所有する複数世帯用の住宅ストックを保全、改善し拡大する
(4) 高齢者、ホームレス、身体障害者など最も傷つきやすい市民の要求に応える 

 という政策目標を掲げた((1)~(4)は横田氏の上記サイトより引用)。さらに過去のニューヨーク市の住宅政策を再評価し、これからあるべき住宅政策を、予算調達計画とともにニューヨーク市に提言した。その内容は、2002年から2013年にかけてのニューヨーク市長・ブルームバーグ氏の住宅施策に多大な影響を与えた。

 筆者は、「低所得層だけ」を対象とした都市計画は成り立たないのだろう、と思う。もし「低所得層だけ」を対象とした都市計画を立案・遂行したとしても、結局は都市全体に影響が及ぶ。おそらくニューヨーク市は、過去の住宅施策の歴史から数多くを学び、未来に活かそうとしているのだろう。ただし数量という面で、現在のニューヨーク市の低所得層向け住宅施策は充分とはいえない。ニューヨーク市だけでも5万人と伝えられる路上生活者の数を見れば、不十分さは明らかであろう。