生活保護基準の見直しが議論されるとき、その生活保護基準が担保すべき「健康で文化的な最低限度の生活」の具体的内容は充分に検討されているだろうか?
戦後の混乱期に発足した生活保護制度は、生活保護基準の定め方をさまざまに変化させ、その時々に最低生活費を定めてきた。しかし、「健康で文化的な最低限度の生活」のありかたに関する具体的な議論は、ほとんど行われてこなかったと言ってよい。
現在開催中の生活保護基準部会は、「住」という生活の根本について、どのような議論を行っているだろうか?
住宅扶助が焦点となっている
生活保護基準部会
厚労省の社会保障審議会・生活保護基準部会(以下、基準部会)は、かつては5年に1回の生活保護基準見直しのたびに開催されてきたが、2012年からは常設の部会となっている。基準部会が2013年1月にまとめた報告書が、同月、厚労省の発表した生活扶助引き下げ方針の根拠となった(ただし、その基準部会報告書には、「だから引き下げが妥当である」と読み取れる内容は含まれていない)。最大で約10%にも及ぶ生活扶助の引き下げは、2013年8月・2014年4月・2015年4月の3段階に分割されて行われる予定である。現在は、4月1日に2回目の引き下げが行われて間もない時期だ。
その後、2013年10月から基準部会は再開されており、生活扶助以外の扶助についての議論が続いている。2014年3月4日に開催された第16回基準部会では、主に就労支援・住宅扶助が話題となった。また、2013年1月の報告書で採用された生活扶助基準の検証手法についても、引き続き、検討が行われる予定である。
今回は、住宅扶助についてどのような議論が行われたかを主に紹介したい。
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住宅扶助の何が
争点になっているのか
生活コスト、特に「住」にかかわるコストが高い日本では、「自分の住環境には不満がない」と思える人は多くないだろう。住まい探しのたびに、家賃・広さ・間取り・地域・最寄り駅からの距離など数多くの要因に優先順位をつけ、「どれをどこまで譲れるか」と悩みつつ、住宅情報を穴が開くほど見つめる。入居したあとは、妥協した要因にガマンしつづけるか、あるいは問題にならないように対策しつづける。それが人々の多くにとっての「住」であろう。いきおい、生活保護当事者の住環境に関する視線は辛口になりがちだ。
本連載でも過去数回にわたり、生活保護当事者の「住」に関する問題を取り上げてきたが、必ず「生活保護のくせにゼイタクだ」「寝泊まりできれば充分だろう、プライバシーのない相部屋でも文句を言うな」「住宅コストの高い東京に生活保護当事者を住ませるな」といった感情論や暴論がネットに散見される。自分の住環境に不満があればあるほど、「労働」という対価なしに多くのものを得ているかにみえる生活保護当事者の「住」が許せなくなる。それは、少なくとも日本人であれば、人として当然の感情なのかもしれない。
しかし基準部会は、感情論に根拠らしきものを与えるために、住宅扶助に関する議論を重ねているわけではない。