宮下さんは、毎月第2土曜・日曜に東京月島で開催されている「太陽のマルシェ」に出店している

 誰に教わるのでもなく、独自に農業を始めた宮下さんは、1年目は「F1種」を栽培した。F1種とは、異なる品種の交配して生まれた雑種一代目の野菜。大量生産向きで、スーパーなどで売られている野菜は大半がこのF1種だ。だが、2年目からは「固定種」(地域の風土に合った種として固定化したもの。伝統野菜・地方野菜・地場野菜などと呼ばれている)に切り替えた。

「本当においしくて健康にいい野菜を消費者に届けるためには、固定種を土の改良と無農薬で育てるのが理想ということがわかり、切り替えました」

 だが、大きさも形も不ぞろいな固定種の野菜は、F1種のように育て方に一定のお手本がない。クルマでいえば、F1種はオートマチック、固定種はマニュアルのようなものだから、育てるのに技術が必要だった。宮下さんは独学でそれを身に付けていった。

「畑をどのように区分けして何を栽培するのか、タネから育てた苗をいつ畑に移すのか、水をいつどのくらいやるのかなど、作る人のセンスも重要になってきます。でもこれが固定種を栽培する農業の魅力ともいえます。

 始めてみてわかったことですが、どんな仕事よりもクリエイティブだと思うんです。完璧に満足できる答えは一生見つからないかもしれませんが、人生をかけられる仕事に出会うことができました」

 現在、宮下さんが手がけるのは、固定種のトマト5種類、ナス5種類、パプリカ5種類、ハーブなど。これらがそろそろ出荷の時期を迎えようとしている。6月・7月に開催される太陽のマルシェにも出品予定だというから、ぜひ一度味わってみたいものだ。

収入は大幅ダウン、
人付き合いの難しさも…

「生きがい」「やりがい」という点では申し分のないセカンドキャリアを手に入れた宮下さんだが、いいことばかりではなかっただろう。

「たしかにサラリーマン時代に比べると収入は大幅に減りましたが、案外スムーズな就農だったと思います。新規就農者の中には、毎晩欠かさず参加しなければいけない酒盛りや、お祭りの事務方を押し付けられるといったように、周りの農家の人たちとの付き合いに苦労されている方が多いという話をよく聞きます。

 私の場合は、お世話になっているのが真岡市で一番大きな神社の宮司さんで、尊徳ファーム運営協議会の代表なので、自由にやらせてもらっています。農地を無料で借りられたのもラッキーでした。

 ただ、畑に草が生えていたりすると、やっぱり周りの農家の人から『だから素人は…』と厳しいお言葉が(笑)。実は、日本の伝統的な農法では、農薬を使うのが常識。それで長年やってきている方たちですから、理解していただけないのは仕方がないと思っています。あの方たちに農薬を使うなというのは、私たちが企画書を作るときにパソコンを使うな、と言われるようなものでしょう」

 と大らかな反面、やはり周りから厳しい目で見られるのが嫌で、次に借りた農地は人里離れた場所。本当は1箇所にまとまっていたほうが効率はいいが、誰にも気兼ねなく無農薬栽培が行えるところを選んだという。