PM2.5による空気汚染が激しい北京。実はその発生源は、河北省だといわれている。中国最大の鉄鋼生産地域であり、北京に電力を供給するための火力発電所も林立しているからだ。
4月中旬の晴れた北京。携帯電話のアプリでその日のPM2.5をチェックすると、161で「軽度汚染」という表示が出た。雨が降った翌日の気持ちのいい晴れた日の朝だというのに、青空はまったく見えない。
気を取り直して、北京から車で1時間半の距離にある河北省・廊坊へ向かう。高速道路を走っていると、心なしかだんだん視界が悪くなっているような 気がする。すると右手に大きな火力発電所が見えてきた。巨大な冷却塔からは水蒸気が上がり、背の高い煙突からは煙が出ている(写真上)。
これがPM2.5の発生源か! と思いきや、後で調べて分かったのだが、この火力発電所は脱硝脱硫の設備を導入しており、発生源ではなかった。
廊坊に着いて目にしたのは衝撃的な光景だった。深い霧でもかかっているかのように視界が利かない。大通りを見渡すと100メートル先すらかすんで 見えない状態だ(写真左)。頭上に輝いているはずの太陽はまったくまぶしくなく、まるでフィルターでも通して見ているようだ。携帯アプリで廊坊のPM2.5 をチェックすると、231で「中度汚染」だった。その日はまだ汚染の程度は軽い方で、別の日にアプリでチェックすると、300超えの「重度汚染」の日も あった。
北京もそうだが、廊坊でも、外でマスクをしている人はほぼゼロ。誰もが平気な顔をして歩いている。記者もマスクをしていなかったが、息苦しいと感じることはなかった。
廊坊は、北京から新幹線で20分ほどの距離にあり、ベッドタウンとして開発が進められてきた。市の中心部には、巨大なショッピングモール「万達広場」があり、仏カルフールやブランドショップ、シネマコンプレックスなどが入っている。
この街も例に漏れず、マンションがあちこちで建設中だ。こんなに空気の悪い街の不動産を買う人がいるのだろうか。販売業者に聞いてみた。「今年に 入って北京からの首都機能移転計画が持ち上がってから、不動産は値上がりしているよ」とホクホク顔だった。単価は2000元も上がって1平方メートル当た り9000元。「この間完成したマンションは、北京人が全部買っていったよ」。
現地の人にとっては、PM2.5などどこ吹く風。廊坊はプチバブルに沸いていた。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 前田 剛)