大口顧客は重要だけれども、一方で対中小の取りこぼしが目立ってきたならば要注意です。今回の質問は、市場のニーズが多様かつ細分化しているため集約できず、競合との差別化も打ち出せないという課題です。どうやら、事業活動のセグメントに問題がありそうです。
Question
重機中堅メーカーで全国営業拠点を統括しています。本社が大手案件を管理し、各拠点は中小案件がメインです。当社の製品は、多機能かつ高品質との定評があ りますが、大手と中小ではニーズも競合との差別化ポイントも異なります。昨今の当社方針としては、大手向けICT対応機が重要製品となりつつあり、中小案件の取りこぼしが目立ちます。その理由を整理すると、価格と、最新機能を不要とする製品仕様への不満です。営業本部としては、注力する対大手のほかに、対中小の営業戦略を持つ必要があるわけですが、各市場のニーズが多様かつ細分化しているため集約できず、競合との差別化も打ち出せず手をこまねいている状 態です。
(質問者:重機、男性、法人営業本部副部門長、43歳)
Answer
なるほど、なるほど。よく見られるパターンですね(笑)。ナショナルアカウント(本社担当)の顧客は取引規模も大きいため重視するが、一方でローカルアカウント(拠点担当)の中小顧客が疎かにされる。顧客が100社あれば、それぞれの顧客が考えていることは100通りあるわけで、かと言って100通りの製品を開発するわけにもいかず、結局は売上に大きく貢献する顧客に焦点を当てざるをえなくなるということですね。
興味深いことに多くの企業は、質問者の会社と同じように考え行動するようです(笑)。ですから大手企業の奪い合いは熾烈を極め、製品市場での競争がタケノコの背くらべの場合は価格競争に陥るため、粗利率が中小の顧客より低くなったりするのです。
プロダクトアウトは時代遅れ
そもそも、ナショナルアカウントである大手顧客のすべてが最新機能を備えた比較的ハイエンド機を必要としているという考え方は、現在の市場環境で成り立つのでしょうか?
確かに、大手企業は十分な資源を有し、これまではシェアを確保するための競争力強化の一環として設備投資を行ってきました。この傾向は右肩上がりの時代には普通に受け入れられ、よりマルチ機能を備えたハイエンド機種を上市して成果をあげてきたのでしょう。つまりメーカーは、機能領域を増やすことで製品の付加価値をあげ、それによってより高価格な製品を提供してきたわけです。それは、プロダクトアウトが成り立った時代の取り組みでした。
ところが、バブル崩壊を境に、日本企業の平均売上成長性率はほぼゼロになりました。売上げが伸びないということは、バブル崩壊前の事業モデルである「よりハイエンドの高価格製品を拡販する」という考え方は通用しません。むしろ、同じ機能を備えた低価格製品や、必要とする単一機能を提供する低価格品が受け入れられるようになりました。つまり、大手顧客がハイエンド機種を購買した時代が終わり、顧客のニーズやウォンツに合った製品が売れる時代に変化したことを意味しているわけです。