人はそれぞれ、「強み」と「弱み」を同時に抱えている。企業も同じだ。みなが100メートル走で金メダルを獲れないように、誰もが、そして、すべての企業が同じような成功を掴めるわけでもない。
「弱み」を矯正することで均質的な人材を大量に育成し、組織を作り上げていくのがこれまでの日本企業の得意なやり方だったとすれば、一人ひとりの「強み」を徹底的に伸ばすことで、強い組織を作り上げていく方法もある。その最もわかりやすく、身近な例がアイドルの世界にあるのかもしれない。
エンターテインメント業界で生き残るために必要なのは、個性的であることだ。誰にも負けない個性が1つあることが今、ビジネスの世界でも大きな価値を持ち始めている。そんな時、次のような質問を自分の心に問いかけてみると、いいかもしれない。
「もしも、あなたが『AKB』のメンバーだったら、どのポジションを狙いますか?」
為末氏×水越氏対談の後編は、個性的な人材、変人を活かすことのできる組織とその育成システムについて意見を交わした。
(構成 曲沼美恵/撮影 宇佐見利昭)
これからの管理職に必要な
「変人マネジメント力」
為末 日本のビジネスパーソンがこれからどう生きていけばいいのかなと考えた時に、「AKB」ってすごく参考になるような気がします。というのは、「かわいいアイドル」は芸能界にたくさんいますよね。それが、AKBという集団になった瞬間に、かわいい子は1人で十分だ、となる。そうすると、かわいい路線で行こうと思っていたけれど、自分はセンターは狙えないなと感じた子が「おもしろ路線でいこう」とか「親しみやすさで勝負しよう」とか、自分が本来持っているかわいさとは違う別の強みに気づいて、それで勝負しようとし始める。そこがすごくおもしろいなと感じているんです。
均質で似たような人間ばかりが集まっているような集団のなかで、自分はどのポジションをとれば最終的に生き残っていけるのか。そういうことを真剣に考える上で、「AKB」って、すごくいい教材だと思います。
水越 それはおもしろい発想ですね。「弱み」の矯正ばかりに気を取られると、最後はどうしても、コスト競争になる。そうではなくて、これからはもっと尖っているところを伸ばす戦略をとった方がいい。その考え方には私も同感です。