BCGの“戦略”コンサルに
弾みをつけたTIの成功

 そんな中でBCGが成功するきっかけになったのが、当時、高級電卓を製造販売していたテキサス・インスツルメンツ(TI)のプロジェクト。この時、経験量(累積生産量)が倍になると単位当たりコストが一定割合ずつ減少していくことを示した「エクスペリエンス・カーブ(経験曲線)」という考え方をBCGは打ち出しました。

 つまり、期初に作る1個と期末に作る1個では製造コストが全く違う。そこで、期中平均コストに基づいて価格を設定することにしたんです。それまでは期初の高いコストに見合う価格設定でしたから、従来に比べて大幅な値下げになります。競合していたヒューレット・パッカードは安売りを始めたTIを見て「あんな価格では利益が出るはずがない。そのうちTIは倒産する」とバカにしていたそうです。ところが、TIの製品は安いからどんどん売れる。売れれば生産量が増えて単位当たりコストがもっと低くなり、さらに価格を安くできる。結果的に、このプロジェクトは大成功を収めました。

 これをTIがアニュアル・レポート(年次報告書)の中で「売上高と利益が大きく伸びたのは、BCGの提唱する『経験曲線』に基づいたプロジェクトのおかげだ」と書いたことで、一気にBCGの名が売れることになりました。

並木 それは、大きな信用につながりますね。

 さらにBCGは、化学系の大企業デュポンを舞台に、「PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)マトリックス」と呼ばれる画期的な企業戦略ツールを考案します。これは「市場成長率」と「相対シェア」を縦横の軸とした4象限のマトリックスで、どの事業にどれぐらい投資すべきか、あるいは撤退すべき事業はどれか、といった経営資源の最適配分を明快に導き出せるようになっている。デュポンをはじめ、多数かつ複雑な事業の管理が大きな課題となっていた当時の大企業にこぞって採用され、経験曲線に続いて一世を風靡することになったんです。

 矢継ぎ早に新しいツールを開発してどんどん成長していくBCGを見て、黙っていなかったのがマッキンゼーでした。うちも「戦略」に力を入れようということで舵を切り、たった3年ぐらいの間に戦略系コンサルティング・ファームとして大きく生まれ変わりました。