クライアントの問題意識の
9割がたは間違っている

 並木さんもご自身でファームを経営されているからよく分かると思いますが、クライアントのほとんどは、「これが我が社の問題だから、コンサルティングを頼みたい」と言ってくる。でも私が思うに、クライアント自身が問題だと考えていることの9割がたは間違っています。

「これこそが問題だ、ということをクライアントにうまく伝えるのが一番の勝負どころです」

 それをはなから、間違っている、いや正しい、などと言っても何も始まりません。だから、とにかく依頼を受けて、ある時点で「私はこれこそが問題だと思う」ということをうまく伝えなくちゃいけない。そこが一番の勝負どころです。それを最後までやらずに、言われるがままにやっていても、クライアントが本当に満足するものは絶対に提供できないと思います。

 そうやってクライアントと信頼関係を築きながら仕事を進められるのが、コンサルティングという仕事の面白さですね。今、DIはBusiness Producing Companyとして、従来型の戦略コンサルティングの枠を超えてクライアントの事業の創造を支援し、自らも事業の創造に挑戦しています。DIの事業が多様化してきて全体の売上も伸びている中で、コンサルティング部門の構成比は30%以下になろうとしていますが、私自身はやはりコンサルティングは非常に面白いと思っています。この歳(69歳)になっても現場の第一線でやっている人は、私ぐらいしかいないでしょうね。本当にこの仕事が好きなんですよ。

並木 堀さんはコンサルティングという仕事に魅力を感じる一方で、BCGを辞めて独立する道を選ばれました。ある種の限界を感じたからこその決断だったと思うのですが、DIを起業するに至った思いとはどのようなものだったのでしょうか。

 外資系のコンサルティング・ファームは、いわゆる「アップ・オア・アウト」の世界です。昇進するか、さもなくば辞めるか。その判断基準となる価値軸は、コンサルタントとして優秀かどうか、その一点だけです。私はそれが嫌だった。人間の価値というものはもっと多様であって、コンサルタントとして超一流にはなれなくても、いろんな仲間が辞めないで活躍できる会社があってもいいんじゃないかと思ったんです。

並木 ファクトベース(事実に基づき、分析的にコンサルティングを行う手法)が得意な人間ばかりの集団よりも、いろいろな個性を持った集団の方が本質的なアドバイスができますよね、きっと。

 その方が、組織としてチャーミングだし、セクシーですよ。マジメも確かに大事だけど、マジメだけではつまらない。私はDIをそういう会社にしたいと思っているんです。

並木 私のファームもそうありたいと思います!

 今回の対談では、堀さんのコンサルティングという仕事への愛情、そしてご自身の職責に対する揺るぎない自信がひしひしと伝わってきました。日本のコンサルティング産業を築き上げてきた堀さんの情熱や信念を、私も見習わせていただきたいと思います。本当にありがとうございました。