すわ、野村もついに銀行になって公的資金注入か――。

 先月末、証券最大手の野村ホールディングスをめぐって、そんな観測が流れて波紋が広がった。

 事の発端は、野村が2008年度の第3四半期決算を発表した1月27日。決算説明会で、自己資本に関する算出方法を見直す方向で検討していると明言したことだった。

 日本の証券会社の財務の健全性を示す指標に、自己資本規制比率というものがある。自己資本から固定的な資産を控除した「固定化されていない自己資本の額」を、有価証券の価格変動リスクなど3つのリスクを足し合わせた「リスク相当額」で割ったものだ。

 ただ、そうした数字を経営指標としているのは日本の証券会社だけ。欧米の金融機関は、国際決済銀行(BIS)の自己資本比率規制を適用している。

 これは、基本的に商業銀行に課されているもので、自己資本を、貸し倒れリスクを資産に乗じたリスクアセットで割って算出、国際的な業務を行なう場合は8%が必須だ。野村は、そうしたBIS規制採用の可能性を示唆したのだ。

 世界的な金融危機の影響で、米証券大手は次々に消滅。残ったゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーも銀行への転換を余儀なくされた。

 万が一のときに公的資金の注入を可能にするためで、投資銀行を標榜していた証券会社の“銀行化”が世界的な潮流となっている。

 野村も業績はいかにも厳しい。08年4~12月期、保有する金融商品などに多額の損失が発生したほか、株や債券の売買業務も振るわず、4923億円の最終赤字と惨憺たる結果。そうしたさなかにBIS規制に言及したため、冒頭のような観測が現実味を帯びてとらえられたのだった。

 当の野村は、「銀行になるわけではない」ときっぱり否定。「海外の投資家などからわかりにくいとの指摘があったため、基準を合わせるのが狙い」(野村證券)とする。

 ただ業績の悪化により、昨年、2度にわたって資本増強を図っているにもかかわらず自己資本は大きく毀損し、格付けも引き下げられた。さらに買収したリーマン・ブラザーズの継承コストも重くのしかかる。銀行化はまだだとしても、厳しい状態が続くことだけは間違いない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部  田島靖久)