なぜ数百万円の出資なら、数%程度に
持株比率を抑えるべきなのか?
昨今、こうしたシード期のベンチャーに対して数百万円程度の投資を行う個人のエンジェルやインキュベーターが増えており、そのこと自体は非常に喜ばしいことです。
しかしながら、今の日本のシード期のファイナンスには大きな問題があります。
それは、「エンジェルやインキュベーターの持株比率取り過ぎ問題」です。仮に上場までに億円単位の資金が必要なのに、最初の数百万円程度の資金調達で20%とか40%といった割合の株式をエンジェルやインキュベーターにとられてしまったら、その後に追加の資金調達をして成長することが困難になってしまいます。
米国のY Combinatorや500 Startupsなどのアクセラレーターでも、シード期の投資としては日本円で200万円~300万円程度で、株式割合は6%平均程度(次回ラウンドの投資後)が相場です(さらに最近、Y Combinatorが120Kドル≒1200万円で7%程度という新しい投資基準を発表しました)。
しかし、日本は米国に比べてシード・ラウンドに資金を供給するエンジェルの層が圧倒的に薄い(=市場原理が働かない)ので、ベンチャー側の資本政策に対するリテラシーが低いと、投資が適正な条件に自然に収束する可能性は低いと思います。
加えて、日本のベンチャーの資本政策では、米国よりさらに経営陣の持株(議決権)比率は高めであることが望まれると考えます。たとえば米国のベンチャーは、ほとんどがデラウェア州の法人で、デラウェア州の会社法が適用され、日本の特別決議にあたる合併や定款の変更まで含めて、たいていは全体の議決権の2分の1超を確保すれば、どんな決議でも通せてしまいます。これに対して日本では、合併や清算はもちろん、株式やストックオプションの発行や定款のちょっとした変更まで、全体の議決権の3分の2以上ないと議案を可決できません。
つまり、(逆だと思っている人が多いと思いますが)法令上は、日本の会社のほうが米国の会社より少数株主の権利が強いのです。このため、上場してからも、米国より日本のほうが、安定株主対策は大変だということになります。
したがって、シード期にたった数百万円程度で20%、40%といった比率をエンジェルやインキュベーターがとってしまうと、その後の資本政策がうまく組めなくなるし、上場も難しくなる可能性が高まってしまいます。
投資家は、上場でなくても、M&Aによって会社ごと買収されて投資した株式が高値で売却されるのでもかまわないかもしれませんが、ベンチャーの経営者には、上場したあとに大株主の顔色を見て、説明や説得に業務の大半を割かれるのは勘弁してほしいという人も多いでしょう。