「仮に親ロシア派勢力が、アメリカが主張するように、誤って民間の旅客機を撃墜してしまったなら、その政治的な代償は非常に大きい。プーチン政権にとってマイナスにしかならない撃墜事件を引き起こした親ロシア派勢力を、これからもロシア政府が軍事・経済的に支援していくのか。ロシア側からの支援が絶たれ、早い時期にウクライナ東部の親ロシア派勢力は壊滅に追い込まれても驚きはしない。ウクライナ東部の戦争状態が一気に終結へと向かうチャンスが生まれたわけだが、このチャンスをどこまで活かせるかは、欧米の本気度にかかっていると思う。恥ずかしながら、ウクライナだけでは何もできないのだ」

地対空防空システム「ブーク」から
旅客機が逃れるのは不可能

 高度1万メートルを飛行する民間の旅客機が、地上からのミサイル攻撃を回避する手段はなかったのか。

 元日本航空機長として42年間で1万8000時間以上のフライトを経験し、現在は航空評論家として活躍する小林宏之氏は「ミサイル攻撃を回避することは不可能」と断言する。小林氏は90年代初頭の湾岸危機における邦人救出特別機や首相特別便の機長も務めている。

「高度1万メートルであっても、地対空ミサイルに撃墜される可能性は高い。撃墜されたマレーシア航空機は高度1万メートルを飛行中だったが、地対空ミサイルのブークの射程距離は2万メートル、つまり20キロ以上といわれており、民間機がブークのようなミサイルによる攻撃を回避することはできない」

「先週、ウクライナ東部でウクライナ軍機が上空6500メートルで撃墜されたことを受けて、墜落現場周辺の制限高度は約1万メートルにまで引き上げられたのだが、運航禁止区域には定められていなかった。東南アジアとヨーロッパを行き来するフライトでは、ウクライナ上空を飛行するのが一番燃費の効率性がよく、各航空会社の判断に任されていたものの、ウクライナ東部を通過することを選ぶ航空会社も存在した。ウクライナ軍機の撃墜では射程距離の短い肩掛け式の地対空が用いられていたため、ブークのような大掛かりな地対空ミサイルが使用される危険性までは、マレーシア航空の関係者も想像していなかったのではないだろうか」

「ロシアに併合されたクリミアは運航禁止区域に定められていたが、マレーシア航空機が撃墜された時点では、ウクライナ東部は禁止区域ではなかった。ここからは私の推測になるのだが、国内に運航禁止区域を増やすことで、隣国のロシアなどから統治能力の欠如を指摘される可能性を嫌がったウクライナ政府側が、運航禁止区域の設定に積極的ではなかった可能性もある。いずれにせよ、空の安全ひとつとっても、それぞれの国の政治的な思惑が絡み合っていることは間違いないだろう」