仕事のときは、
「役者」に徹する。
そんな私にとって、元気のモトは一軒の寿司屋でした。
職場の近くにあった、立ち寿司屋「肥後すし」です。
このお店は、味がいいのはもちろん、とにかく親方の人柄がよかった。いつも元気いっぱい、笑顔いっぱいで、おいしい寿司を食べてるうちに、自然とこっちも元気になるのです。
出先から親方が帰ってきて、カウンターに入るだけでお店の空気が「パーン!」と変わる。お茶を出すとき、おしぼりを差し出すとき、その一挙手一投足に「よく、来てくださいました!」という気持ちがこもっています。そして、寿司を握りながらも、細かくこっちの状況に目配りをしてくれます。「心」をこっちに向けてくれていることが伝わってくるのです。
「やっぱり、笑顔って大きいな」
「こんな感じで明るい声を出さなあかんな」
「お客様に、こういう気持ちを伝えなあかんな」
そんなことを、考えさせられたものです。
そして、お店を出るときには、すっかり元気になって、「またがんばろう!」と思っているのです。
いつしか、「肥後すし」の親方が私の目標になっていました。
そんな親方に、一度、質問をしたことがあります。
「親方は、もともと元気いっぱいな方なんですか?」
きっとそうだと思っていたのです。親方はもともと、そういう素質をもって生まれてきたんだ。だから、やっぱり俺にはできない、と。
しかし、意外な答えが返ってきました。
「そんなことないわ。お店に立つときには、スイッチを入れるんや。言ってみたら、役者みたいなもんやな」
この言葉に、目からウロコが落ちました。
そうか……、親方はいつもすごく元気だけど、それは、やっぱり努力してそうしてるんや……、と。