自動車の大衆化の先駆けとなったT型フォードが誕生し、米ゼネラル・モーターズ(GM)が創業したのは1908年のこと。
この100年、とりわけ第二次大戦後の世界経済において、自動車産業が果たしてきた役割はあまりに大きいものでした。
ピーター・ドラッカーは1946年、36歳のときに著した「企業とは何か」の中で、自動車産業について「近代社会の代表である。20世紀の産業中の産業として、19世紀初頭におけるランカシャーの綿紡工場に相当する」と述べています。
「産業の中の産業」というのは、日本においても同様です。自動車産業は裾野が広く、日本経済全体に多大な影響力を持っています。
自動車関連産業の就業人口は515万人に及び、日本の全就業人口の8.0%に当たります。さらに、全製造品出荷額の17.0%、主要商品の輸出額の21.6%を占め、ものづくり日本の象徴です。
また、自動車関係諸税は租税総収入の9.5%を占め、自動車関連の消費も国を支える屋台骨となっています。
その20世紀を代表する“産業の中の産業”自動車が今、大きな転換点を迎えています。
周知の通り、世界の自動車産業のリーダーだったGMやクライスラーは、連邦破産法第11条(チャプターイレブン)の適用を申請し、破綻しました。GMが株式市場から退出したことで、ダウ工業株30種平均から自動車銘柄はひとつもなくなりました。
米国での販売急落は日本メーカーも襲い、トヨタ自動車は創業以来初めて、赤字に転落しました。まさに今、自動車業界は大きな時代の転換点を迎えています。
この先、世界がこの不況から脱し、さらに米ビッグ3が再建を果たし、日本メーカーの体力が回復したとしても、自動車産業の未来はこれまでの延長線上にはないでしょう。
化石燃料から代替燃料へと環境対応が迫られ、主要車種も大型車から小型車へとシフトしています。生産地・新たな消費地として先進国から新興国に主戦場も移行しつつあります。特集では、こうした構図の中で日本メーカーに勝ち目はあるのかを検証していきます。
また、次の100年をどう生き抜くかは、「新たな価値」の創造にかかっています。そこで、クルマ社会の未来についても考えてみました。
たとえば日本では、若者の自動車離れが進んでいます。70年代のスーパーカーブームを引き合いに出すまでもなく、クルマはいまや子ども憧れの存在ではありません。むしろ、環境を破壊し、交通事故を引き起こす「カッコ悪い存在」ですらあります。
編集部では、小学校の社会科教科書の変遷から、若者の自動車離れを引き起こした原因を探ってみました。すると、1992年の学習指導要領改訂がターニングポイントだったことが判明しました。
今回わかった意外な事実、そして課題解決の処方箋については、ぜひ特集をご覧ください。
そのほか、肩肘張った話ばかりでなく、思わずクルマに乗りたくなるような楽しいコラムも盛り沢山です。
(『週刊ダイヤモンド』副編集長 深澤 献)