アルファベットのルーツはどの文字か?

 フェニキア人は海の商人。ギリシア人と同時代、今から3000年昔の地中海を縦横無尽に活動していた海の民でした。活動の本拠地は、地中海の東の端、ティルス(Tyrus)。今のパレスチナ地方です。

 3000年前の世界を眺め渡してみると、フェニキア文字の元になった文字として、いくつかの候補が浮かび上がります。

アルファベットは「なぜ」生まれたか?<br />~日常からの発見【文字編】

 まずは、楔形(くさびがた)文字。ティルスの東には楔形文字を発達させたメソポタミア(バビロニア王国)が控えます。

 また、すぐ西には原シナイ文字を持つシナイ半島、さらに西にはヒエログリフ(象形文字)を持つエジプト王国が隆盛を誇っていました。

 これらのどれが、フェニキア文字につながったのでしょう?

 いまのところ、フェニキア文字はおそらく原シナイ文字に由来し、その原シナイ文字は、実は、エジプトのヒエログリフに由来するのではないかと考えられています。

 なんと、よりによって漢字並みに複雑な表意文字であるヒエログリフが、音素文字であるアルファベットの起源だというのです。

ヒエログリフはただの象形文字ではなかった!
天才シャンポリオンの答え

 紀元前32世紀から、この当時で既に2000年にわたってエジプト王国を支えてきた文字、ヒエログリフ。それは複雑なカタチと構造を有し、シンプルの境地であるアルファベットとは似ても似つきません。でも、ここから確かに、アルファベットが生まれ出たのです。

ヒエログリフは、少ない時期でも700文字、多いときには6000を超える文字を有していました。これは、音素文字であるアルファベットとしては如何にも多すぎます。でも700文字は、漢字のような表意文字としては少なすぎます。それでは、十分な意味を表しきれません。

アルファベットは「なぜ」生まれたか?<br />~日常からの発見【文字編】

 ヒエログリフは、その中途半端さ故に多くの学者の解読への挑戦を、撥ね付けてきた(*5)のです。しかし1799年、ロゼッタ村でロゼッタストーン(*6)が発見され、ナポレオン・ボナパルト一行がその写しをフランスに持ち帰ったことで、その解読熱はピークに達しました。

 20年後の1822年、天才言語学者ジャン・シャンポリオンは、遂にその解読に成功します。誰にも読めなかった古代エジプト象形文字、ヒエログリフの複雑なシステムを解明したのです。(因みに当時、彼は失業中だったとか)

*5 エジプト王朝が絶えたことで、ヒエログリフを解読できる者も4世紀頃にはいなくなった。
*6 上中下の3段に分かれ、同じ内容が「ヒエログリフ」「デモティック」「古代ギリシア文字」で書かれている。内容は、プトレマイオス5世のため紀元前196年にメンフィスで出された勅令。