発明大国、起業国家としてのイスラエルを描いた『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』の共著者の一人、シャウル・シンゲル氏が来日し、政策研究大学院大学で開かれたシンポジウム「START-UP NATION イノベーションと起業で輝く国をめざして」で基調講演を行った。これに先立ち、本連載のため単独インタビューに応じていただいた。(取材・翻訳 ダイヤモンド書籍オンライン編集部)

複数の起業経験をもつ、シリアルアントレプレナーが増えている

――Start-up Nationの日本語版『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるのか?』が出版されて2年、その原書であるペーパーバック版が出てから3年、どんな反響や変化がありましたか?

シャウル・シンゲル(Saul Singer)1961年生まれ。タフツ大学卒。『Start-up Nation : The Story of Israel’s Economic Miracle』をダン・セノール氏と共同して執筆。日本で『アップル、グーグル、マイクロソフトはなぜ、イスラエル企業を欲しがるか?』の書名で翻訳出版されたのをはじめ、中、韓、仏、伊など多くの言語で出版され、各国でベストセラーになった。アメリカ連邦議会の議員顧問や下院外交委員会、上院銀行委員会のスタッフとして10年間働き、1994年にイスラエルに移住。エルサレム・ポスト紙の編集者、コラムニストを務め、現在はタイムズ・オブ・イスラエル紙の論説委員兼コラムニスト。各国で講演を行っている。研究機関、投資基金、NGOなどにも係っている。

私たちが本書を最初にハードカバーで出版したのは2009年、5年前のことです。取材し、取り上げた多くの企業の状況は変化しましたし、執筆当時は存在しなかった企業がたくさん生まれています。スタートアップの動きは活発で2~3年で大きく変わりますから、私たちは個々の企業に焦点を当てるのではなく、その背後にあるもの、つまりスタートアップがなぜ次々誕生するのかということに焦点を当てたのです。

イスラエルのスタートアップの状況は執筆当時も現在も基本的に変わっておらず、成長し続けています。起業家たちはより経験を積み、複数の起業を成し遂げるシリアルアントレプレナーも次々に誕生しています。彼らは新たに起業する、いわば新人起業家のメンターとして重要な役割を果たしています。

また、これまでは起業した会社を大企業に売ることが多かったのですが、経験を積んだ起業家は会社を大きくすることにも関心を向け始めています。よく聞かれるのはなぜ、イスラエルにはグーグルやフェイスブックのような大企業がないのかということでした。その答えは、起業家たちは大企業に必要なマネジメントやセールス、マーケティングといった多岐にわたる業務に挑戦する準備ができていなかったのです。会社を大きくしようとすることと、イノベーティブであることは異なるステージですから。