今読みたい戦略書【第2位】
チャン・キム、レネ・モボルニュ『ブルー・オーシャン戦略』
目標自体を正しい形に変える「市場創造戦略」

 世界最高峰のビジネススクールの一つと言われるフランスINSEADの教授である、チャン・キムとレネ・モボルニュの共著による戦略書。日本語版は2013年に発売。『ブルー・オーシャン戦略』は有名な割に、実際の内容に詳しい人は少ないと思われる書籍の一つですが、本書では読み方を間違えないことが何より重要だと考えられます。

 誤解の多い点の一つは「ブルー・オーシャンという競争のない市場が最初から存在する」という考え方です。現実には、そのような都合のよい市場は、はじめから存在はしません。
 この点を誤解すると、この戦略は現実的に活用できない机上の空論となってしまいます。

 大人向けの幻想的なサーカス「シルク・ドゥ・ソレイユ」、女性向けフィットネスの「カーブス」などの事例を基に研究がなされていますが、重要な点は従来の商品カテゴリ以外の顧客層から、何らかの形で消費者を“新たに流入させる”ことが戦略の焦点になっていることです。

 歴女(れきじょ)という言葉が近年流行しましたが、過去日本の歴史的な史跡、例えばお城跡などは、歴史に詳しい男性や一般の観光客が見物者の中心でした。ところが、歴史ゲームやアニメなどが、戦国武将に憧れる若い女性ファンを生み出しており、過去とまったく違う観光客が、史跡に訪れる姿が最近は増えています。

 女性向けフィットネスの「カーブス」は、アメリカ発祥ながら日本国内でも900店舗以上を展開していますが、メインの顧客は「従来のフィットネスクラブほど、お金も時間もかけたくない女性層」です。つまり、従来の顧客層とは違う消費者が、フィットネスというカテゴリに新たに吸引されるには、何が必要であるか(何を削ぎ落すべきか)を考えた末に生まれたサービスなのです。だからこそ、飽和市場だと思われたフィットネス業界で、後発であるにもかかわらず、日本全国の広い展開と浸透に成功しているのです。

 このように「新しい市場を作る戦略」こそ、私たち日本人が改めて注目すべき戦略ではないでしょうか。ブルー・オーシャンとは、競争のない楽な市場を血眼で探すのではなく、従来はまったくお客様ではなかった層を取り込み、新しい市場を作りながらその市場の制覇を狙った戦略なのです。

 これは2104年に米国で上場したアクションカメラという新しいデジタルカメラ市場を生み出したGo proにも共通する戦略だと思われます。ご存じのように、既存のデジカメ市場はスマホの高機能化で大苦戦していますが、新たな顧客層を取り込むGo Proは、2013年には、なんと前年比87%増の9億8500万ドルの売上高を記録しています。

 ブルー・オーシャンのようなラクな市場は存在しない!という指摘をよく見かけます。それは当然で、もともと存在する市場ではなく、新しく形成するものだからです。この誤解を乗り越えると、この戦略の本来の使い方がようやく分かり始めるのです。