今読みたい戦略書【第4位】
ビジャイ・ゴビンダラジャン他『リバース・イノベーション』
目標自体を正しい形に変える「視点逆転戦略」

古今東西3000年から厳選する、<br />今、日本人が読むべき「戦略書」ベスト10【前編】

 著者のビジャイ・ゴビンダラジャンは「最も影響力のある経営思想家」のトップ50を選出するThinkers50で、2011年には第3位に選ばれた戦略とイノベーションの世界的権威です(2013年は第5位)。

 同氏は米ゼネラル・エレクトリック社初の在外教授と主任イノベーション・コンサルタントを務めたことでも有名で、世界の新興市場でのGEのリバース・イノベーションの成功事例も紹介しています。

 本書の要点の一つは「高機能・高価格製品」の時代の終わりです。世界市場は先進国の「高機能・高価格」を好んで買う層と、「超低価格・中性能」を好んで買う新興国の消費者層に分かれており、後者は58億人の巨大新市場なのです。

 日米を含めた先進国は、自国の高機能製品を少し安くしたグローカリゼーションの製品を作って売り出せば、新興国市場でも広く受け入れられるだろうと考えがちです。ところが、新興国には独自のニーズと受け入れられる価格帯があり、グローカリゼーションの製品群では鳴かず飛ばずで地元企業に大敗するケースが多いのです。

 GEヘルスケアは医療画像処理では世界的な技術を有するメーカーです。しかしインド市場でグローカリゼーションをおこない、先進国向けの製品を安い3000ドルで販売した時には、営業担当者が嘆くほど売れませんでした。インドの平均収入、また訪問診療が多い地域性を考慮せず、先進国市場の目線からみて安いと思われる価格で攻めても、ほとんど見向きもされなかったのです。

 苦境のGEヘルスケアは、現地のニーズから逆算した製品開発(リバース・イノベーション)を開始します。調査の結果、目標の製品価格はなんと800ドル、訪問診療のニーズに応えるため、1回の充電で少なくとも100回の心電図が取れるようにしました。MAC400と命名されたこの新機種は、インド市場のみならず欧米市場でも、小さな診療所などで購入され世界中で売れるヒット製品になります。

 拙著『戦略の教室』でも指摘しましたが、リバース・イノベーションのような戦略は、戦略というものが本質的に何を目指しているかを教えてくれます。GEは他の先進国企業と同様に、新興国の攻略に苦しんでいました。しかし現地で成功している企業と同じ成功を再現できる視点を手に入れたことで、この壁をあっさり乗り越えてしまったのです。

 筆者の見解ですが『リバース・イノベーション』は、世界的に有名なクレイトン・クリステンセンの著作『イノベーションのジレンマ』の続編的な視点を持っています。クリステンセン教授の著作は、一流企業が高機能・高価格帯の製品カテゴリに登り詰めることで、マーケットの隅に追いやられてしまう現象を解明していますが、リバース・イノベーションはその問題への解決策の一つを具体的に提示しているからです。

 第5~10位は、後編(10月9日公開予定)でご紹介します。