世界中で増殖する「危険ドラッグ」
クラブで使われる新たな薬物は、毎週のように登場している。2010年だけでも、イギリスの路上で、40種類の新たな薬物が販売された。そのほとんどが「危険ドラッグ」だった。つまり、政府の手続きが追いつかないというだけの理由で、まだ非合法扱いになっていない薬物だ。そうでなくても、現在、薬物乱用法により規制されている薬物は600種類を超えている。
当然のことながら、インターネットは薬物の広がりを加速化させている。IT関連のベンチャー企業界で言われているように、電子商取引は無限に拡張可能だ。薬物を販売しているウェブサイトは、在庫があるだけ顧客に商品を提供できる。ペイパルが使えるウェブページを作れば、街の売人を大量に雇う必要などない。
このプロセスはあまりにも迅速なので、毒物学者による薬物の短期および長期作用の分析が間にあわない。驚くほど自らの健康に注意を払わないクラブ通いの若者たちは、“ロフルコプター”などという名前の怪しげな錠剤にも喜んで手を出す。その中に何が入っているのか、まだだれもよく知らないのに――もちろん、そんな薬を作った悪徳化学者以外は、だが。
政府のお抱え科学者たちは、こういった薬物を分類して若者たちに摂取の危険性を伝ようと奮闘しているが、地下組織の研究所とその新たな電子商取引部は、彼らのずっと先を行っている。これは勝ち目のない戦いだ。
いずれにせよ、違法薬物に対する宣戦布告など、今日では旧態依然とした行為になってしまった。若者が陶酔感に浸ろうとするとき、その手段は、ドラッグ、アルコール、その他何でもありなのだ。快楽の経験には、入手できるものなら何でも、そしてそのときにぴったりくるものなら何でも関わってくるのである。
ビンジ行為の多くには、快楽の軌跡が辿れるように計画された一連の飲酒と薬物摂取が含まれる。クラブ通いをする若者が、スーパーマーケットのカートにウォッカの瓶を入れたあと、「あ、MDMAも入れなくちゃ」と思って棚にある小箱に手を伸ばす、というような段階にまで私たちの社会が達することはおそらくないだろう。でも、MDMAは電話を1本かければ手に入る。だとすれば、そこに違いなどあるだろうか?