iPhone、フラペチーノ、危険ドラッグ、お酒、フェイスブック、アングリーバード、オンラインポルノ……。私たちはなぜこんなにも簡単に「病みつき」になるのか?
約15年間、自らもアルコール依存に陥っていた記者が、綿密な取材と実体験をもとに著した『依存症ビジネス』は、テクノロジーとビジネスの共犯関係、さらに社会が依存症を生み出すカラクリを暴いた。この連載の最後を飾るテーマは、「ドラッグ」。かつては海の向こうの(たまに国内の)お騒がせセレブにまつわるニュースがほとんどだった日本でも、「危険ドラッグ」の登場で、もはや他人ごとではなくなった。なぜここまで急速に広がっているのか、そして、なぜ昨日まで普通だった人がハマってしまうのか――。「誰もが陥りうる」問題として、ぜひご覧いただきたい。
人類史上最悪の薬物
――MDMAの何が本当に危険なのか?
1980年代半ばに登場し、即座に人気を博した合成麻薬“エクスタシー”が成しとげたことは2つある。1つめは、ハードドラッグとソフトドラッグの境界線を曖昧にしたこと。2つめは、何百万人もの若者に、錠剤という形で大量摂取(ビンジ)の概念を教えたことだ。エクスタシーはアルコールよりも強い多幸感をもたらす――少なくとも最初の数回は。しかし、ハイの感覚が長くは続かないことと、そのわびしい退薬症状は大量飲酒と変わらない。さらに、このドラッグはあまりにも容易に社会に容認されたため、それまで毎週末に泥酔する必要などなかった若者が、気分を変えるために、違法に製造された製品を頻繁に使うはめになった。
おそらく、MDMA(エクスタシーの活性成分)をやっている者のうち、この頭文字の意味を知っているのは、1000人に1人もいないだろう。その答えは、メチレンジオキシメタンフェタミン。薬物研究者のハーヴェイ・ミルクマンとスタンリー・サンダーワースが指摘するように、この長い言葉の後ろ半分は、だれにとっても警戒警報になるはずだ。
“メス”(メタンフェタミンの略)は、路上で手に入る非合法ドラッグのうち、人類が知るなかでも最悪の薬物の1つだ。その(もともとは)中産階級用の派生物だったエクスタシーは、メスと同じように、セロトニンとドーパミンの神経系を過剰刺激して長期的な脳の障害を引きおこす危険性がある。現在中年に差しかかっているエクスタシーの最初期のユーザーが、このドラッグに捧げた半宗教的とも言える献身のつけをどう払わされることになるのかは、いまだに判明していない。
一方、これまでに起きたことは、研究をさらに複雑なものにしている。つまり、MDMAはクラブの外に沁みだして世界じゅうのバーに広まり、それにつれて化学的に変化しつづけているのだ。そのあいだに、コカインも神秘的な雰囲気の多くを失った。コカイン、エクスタシー、ケタミンなどのドラッグのどれを摂取するかは、その場で手に入るものが何であるかによって決まることが多い。