山主さんの稲刈りにも「森部」が出動

「トランジション藤野」は地域の人や資源に目を向け、住民自らの創意工夫で地域づくりを進めるという草の根の運動である。2008年に藤野で発足し、現在、様々なワーキンググル―プが活動を展開している(連載第91回94回106回参照)。その1つが「森部」(代表は桝武志さん)で、コアメンバーとして竹内さんと伴昌彦さんらがいる。いずれも林業のプロではなく、藤野に移り住んできた会社員や自営業者、農業従事者といった人たちだ。

森林再生に住民自らが取り組む
トランジション藤野「森部」の試み

きらめ樹間伐と「森部」の桝さん

 この「森部」のメンバーが放置された藤野の人工林に入り、間伐を行っている。もちろん、山主さんの協力を得てのボランティア活動で、チェーンソーを駆使して伐採するプロのそれではなく、ノコギリと竹べらを使っての作業となる。

 幹回りの樹皮を剥き、そのまま木を丸裸にしてしまうのである。そして、ゆっくりと立ち枯れさせる「皮むき間伐」という手法だ。水分を含んだ樹皮を剥くことで、1年半から2年後には良質な天然乾燥の木材になる。伐採時にはぐっと軽くなるので、山から運び出す際の難儀さも減る。安全なので、子どもたちでも遊び感覚で取り組めるという。

 人工林の木が「皮むき間伐」されると、丸裸となった木質が森の中できらめいて見えるため、「きらめ樹間伐」とも呼ばれている。「トランジション藤野」の「森部」は、この「きらめ樹間伐」を2011年から藤野の2ヵ所の山林で実施している。荒廃した地域の山を少しでも再生させたいとの思いからだ。

 そして、山の再生を目指す新たな取り組みを開始していた。それは「水脈整備」というもので、まだあまり世に知られていない山の再生手法だ。「水脈整備」は、造園家で環境再生医の矢野智徳氏(NPOもりの会副理事長)が提唱する独自理論によるものだ。こういう考え方だった。

水脈整備した水路を点検する「森部」のメンバー

森林には本来、水と空気の流れというものがある。それが人工的な構造物で寸断されたり、大きな圧力がかかり目詰まりとなっている。そのため水と空気の流れが滞り、森林全体がいわば動脈硬化を起こしている。こうした水と空気の詰まりを取り除くことで、森林を蘇らせるという考え方だった。「森部」のメンバーが共鳴し、「水脈整備」の取り組みにつながっていった。

 矢野さんは藤野の隣町、山梨県上野原市に在住していた。これ幸いと、「森部」は多忙な矢野さんに特別講座の講師を依頼した。「水脈整備」のレクチャーとフィールドでの作業の手ほどきを受け、2013年2月 から実践に乗り出したのである。

山から下りて、皆で地産地消の昼食

 地域の山主さんの理解と協力を得て、山に入り、かつての水路を復活させたり、山道に水切りを入れたりしているのである。 「森部」の桝代表は、「人が一度手を入れた森は、メンテナンスを続けていく必要があります。それが我々の責務だと思います。水脈は血管と同じで、詰まると病気になります。水や空気、土砂が流れないことによる負荷が溜まり、別のところから溢れ出るのだと思います」と語る。こうした地道な作業こそが、本当の「国土強靭化」につながるものなのではないだろうか。