(3)失敗や間違いは、
早く認めるほうがレジリエンス(復活力)を発揮できる

 戦略というものは先人の試行錯誤で生まれるケースがほとんどですが、何らかの現象や成功、勝利の再現性を高める概念だと言えます。戦略家の生涯、彼らの活躍の軌跡を俯瞰していくことでわかる叡智のひとつは、失敗や間違いは、早く認めるほうが復活力(レジリエンス)を高めることができる点です。

 レジリエンス(復活力)は最近注目されているキーワードですが、災害や大きな社会的変化に対して健全な弾性力を持つことであり、一時的なマイナスのできごとをダメージとして長期間引きずるのではなく、それに呼応して新しい変化を生み出して克服する能力を指しています。

 古く賞味期限の切れた戦略の影響下から、抜け出すためにはまず失敗を認める、間違いを正しく受け止めることが必要になります。これはレジリエンスが発揮されるための入り口ともいえる行為であり、逆に失敗や間違いを認めないことは、危機を前にして個人や組織の復活力が発揮されることを、阻害することになるのです。

 戦略と他社の成功事例を広く俯瞰することは、自らの間違いを認めやすくする効果もあり、「本当は何かが間違っているのではないか?」というふとした疑問を抱かせるきっかけにもなります。これは賞味期限の切れた戦略を握りしめたまま、不振にあえぐ状況に一石を投じることにつながるのです。健全な意味の懐疑主義は、目標を優れたものに更新する、手段をより効果的なものに差し替えるなど、さまざまな変化を生み出してくれるのです。

「絶対不変」の前提はなく、社会の変化で正解の形もどんどん変わっていくのですから、私たち自身も過去の正解にこだわることを避けなければなりません。この連載の中で、古い目標から組織を引き剥がしてくれる戦略を多く解説したのは、日本企業が正解の形を変えていく必要性がある時代に突入しているからです。

 失敗や間違いを素直に認めましょう。「何かが間違っている」という小さなつぶやきだけでも効果があります。新しい入り口を探すためには、今まで毎日開いて使っている古いドアを疑う必要があります。人類3000年の戦略の歴史は、過去を健全に疑うことでたゆまぬ進化を促してきたのですから。

古い固定観念に、
最も効果的に風穴を開けていく戦略を学び続ける

 失われた20年を日本は経験していると言われています。現在の景気は企業による格差が激しい状況ですが、壁と閉塞感を感じている組織であれば、何かのきっかけによってこの閉塞感に風穴をあけていくことが求められているはずです。

 戦略は平坦な道を歩む人に与えられる武器ではありません。目の前を遮る壁を乗り越え、閉塞感を打ち破る必要性を感じている人こそが手にする武器なのです。

 人類3000年の歴史から戦略を俯瞰した書籍『戦略の教室』では、壁を打ち破る力としての戦略の姿を浮き彫りにすることを目指しましたが、後から振り返ると当たり前に見える歴史は、その当時の人々が数々の困難と闘い乗り越えた結果として積み上げられたものです。

 危機や閉塞感は、過去数えきれないほど多く突きつけられた問題であり、自ら変化をすることでそれを乗り越えることが、今を生きる私たち全員に課せられているとも言えます。未来へ挑戦する3つの戦略発想は、新たな希望に手を伸ばす私たちの強い味方になってくれる視点なのです。