――NASAが日本の宇宙産業に対して、そんな圧力を掛けてきているというのは初めて知りました。

真山 日本人はあまり知らないんですけど、アメリカの宇宙開発の予算の半分は、国防総省から出ています。ペンタゴン(国防総省の通称)が目をつけているんですね。

 欧米諸国は、日本がまた戦争を起こすかもしれないと警戒しています。その時、日本が固体燃料ロケット技術を使ってミサイルを自国配備したら、大きな脅威になります。何せピンポイントでどこでも狙えるんですから。日本にそんな武器を持たせるわけにはいかない。

 小説では、そのあたりの設定を現実よりもかさ上げしていますが、これは、日本のモノ作りの原点とも言えるんですね。もしこの技術を、中南米とかアフリカ、アジアに輸出したら、欧米先進国をしのぐミサイルを作れることになるんです。アメリカにとってはやっかいな問題です。

日本の国益を売り渡す、とは
どういうことか?

――タイトルはなかなか刺激的ですが、真山さんにとって「売国」とはどういう意味ですか?

真山 簡単に言うと、日本の国益を、日本ではないところに売り渡す行為ですね。たとえば、日本の製薬メーカーが画期的なガンの薬を発見したとしましょう。それを日本で薬にするためには、薬事審議会に許可をもらい、日本で発売したら、輸出もできるようになって、アメリカがその薬をまたチェックして、アメリカで使えるようになるという流れになりますよね。

 ではアメリカがそれを潰したい時にどうするか。スパイを薬事審議会や厚労省に送り込んで、製薬会社に圧力を掛けて、新薬の申請を通さない。あるいは、国税庁を動かして、製薬会社を脅して研究開発を遅らせる。そのうちに、薬のデータをアメリカに売り渡して、アメリカの製薬会社に先に開発させる。そういうことです。

――「売国」という言葉には、ちょっとイデオロギー的なにおいも感じてしまいますが。

真山 いや、イデオロギー的な意味はまったくないですね。もはや多くの人にとって、イデオロギーなんか関係ないと思います。だから『売国』というタイトルで、右翼、左翼っていう発想はないかなと思っていますけど。

 それより、日本の国益を売り渡す、国を売るという意味でインパクトがあるのではないでしょうか。

――国益を売り渡す理由は、私利私欲のためでしょうか?

真山 私利私欲の人もいるでしょうし、ハニートラップに嵌められた人もいるでしょうし。

 スパイって、若いころにリクルートされて、20年ぐらいかけて磨き上げられていくんですよね。その年月の間に、彼はその国で出世して権力者になっているんですよ。その権力と、スパイ行為が成功したときに与えられる報酬は、やっぱり多くの人にとって蜜の味なんです。先進国は、こういうスパイ=売国奴をずっと作ってきた。ル・カレやフォーサイス、フリーマントルなんかの小説を読めば、いかに長い年月をかけて彼らはそれをやってきたかがわかります。日本でそういったスパイが摘発されていないだけです。