『ハゲタカ』シリーズなどで知られる、作家の真山仁さん。デビュー10周年を記念した本連載では、第一弾として、ロングインタビューのダイジェストを全3回に分けてお送りします(完全版はcakes掲載)。今回はその最終回。真山さんの新聞記者時代の先輩である中央公論新社の石田汗太さんが聞き手となり、旧知の仲だからこそ引き出せた各作品への思いや作品づくりの裏側をお楽しみください。常に日本の「今」とともに歩み、作品を送り出してきた真山仁さんが、最新刊『売国』や今後10年で取り組みたいテーマについて率直に語ってくれました。

アメリカ国防総省もつけ狙う
日本の凄い技術が最新刊のテーマ

――10月30日には、いよいよ最新作の『売国』(文藝春秋)が刊行されます。これも問題作ですよね。テーマは「宇宙開発」です。冒頭、日本が世界において掛け替えのない国になる道は、原発と宇宙しかないというテーゼが登場します。

真山仁(まやま・じん)小説家。1962年大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業。新聞記者、フリーライターを経て、2004年企業買収をめぐる熱き人間ドラマ『ハゲタカ』でデビュー。2007年に『ハゲタカ』『ハゲタカ2(『バイアウト』改題)』を原作とするNHK土曜ドラマ『ハゲタカ』が放映され、大きな反響を呼ぶ。同ドラマは国内外で多数の賞を受賞した。ほかに、地熱発電をテーマにした『マグマ』も、2012年にWOWOWでドラマ化された。その他の著書に、日本の食と農業に斬り込んだ『黙示』、中国での原発建設を描いた『ベイジン』、短篇集『プライド』、3.11後の政治を舞台にした『コラプティオ』、「ハゲタカ」シリーズ第4弾となる『グリード』、『そして、星の輝く夜がくる』などがある。10月30日に新刊『売国』(文藝春秋)を刊行予定。2014年でデビュー10周年を迎えた。【写真:長屋和茂】

真山 最初は航空産業でやろうと思ったんですよ。いけるかなと思ったんですけど、飛行機に関しては、やはりアメリカが盤石な国際ルールを作っている。他の国が自分たちを越えられないような制度を持ってるんですよ。そうすると結局、いくらよい飛行機を作っても、アメリカで飛べないんでは誰も買わないんです。

 これは相当に大きな壁で。もし「売国」させるなら、日本がアメリカ人スパイを作らなきゃならない。これは無理だなと思った時に出てきたのが、日本の「固体燃料ロケット」。実はすごい技術で、アメリカが以前から苦虫を噛み潰していると。

 これまでの日本のH2ロケットシリーズやアポロなど、液体燃料ロケットの場合、人が乗れるような大型化が可能になる一方で、非常にメンテナンスが大変で、打ち上げにリスクを伴う。スペースシャトルのチャレンジャー号みたいに、打ち上げの時に引火して爆発することもあるんですよね。

 一方、固体燃料ロケットは、大型化は難しいものの、火薬の発想からできてるので、ランチャーの付いている車で、どこからでも移動して飛ばせる機動性がある。

 そして最大のポイントは、固体燃料ロケットがミサイル、つまりICBN(大陸間弾道弾)と同じ構造だということです。この制御力がすごく重要で、日本の固体燃料ロケットは、鹿児島から打ち上げて、ブラジルで飛んでいる蝶々のど真ん中をぶち抜くだけの制御力があるそうです。そんな技術を持っているのは日本だけなんです。

――すごい技術ですね。

 その技術をアメリカは欲しくて、NASA(米航空宇宙局)がJAXA(宇宙航空研究開発機構)に、日本の固体燃料ロケットの設計図を見せろと迫ったそうです。でも、どんなに図面どおりに作って打ち上げても制御できない。それは意図的に隠してるのではなく、制御技術が「口伝」だからです。みんなでわいわい議論しながらロケットを作っているので、図面に記録しなくてもいいって発想があるんですよ。

 アメリカは、バラバラだった日本の宇宙開発技術をJAXAに統合して、固体燃料ロケット開発チームを全部そこに入れて、すべて文書化しろと圧力をかけているそうです。こういう前提を聞いて、地熱発電と一緒で、そんなに日本の技術はすごいんだって思ったのがきっかけです。