阿部氏は、

「格差を生活保護世帯の中に取り込むべきではありません。事務局案の比較ではダメです」

 と強く主張した。厚労省の事務局も、

「これは叩き台です。おっしゃることを踏まえて、検証手法案を練り直します」

 と答えた。

生活保護基準の設定方式は?
“水準均衡方式”をなし崩しにしてよいのか

 つづけて、基準部会委員の岩田正美氏(日本女子大学)は、生活保護基準自体の決定方法を問題にした。

 生活保護基準の決定方式は、「マーケットバスケット方式→エンゲル方式→格差縮小方式→水準均衡方式」と変遷してきた。戦後間もない時期から現在に至るまで「軽い活動ができる程度のカロリー摂取を可能にする食費プラスアルファ」という考え方が見え隠れしつづけ、なおかつ「なるべく増やさない」という財務省の意向によって抑制される傾向が続いたことは、岩永理恵氏(参考:本連載第8回)をはじめとする研究者による研究が明らかにしてきたところだ。それでも、その時代なりに妥当性と必要性が検討されて採用された方式ではある。

 また、新しい方式が採用されるにあたっては、古い方式の問題点が新しい方式で解決されるかどうかが慎重に議論され、新しい方式が生活保護利用者たちに不利益をもたらさないように連続性に配慮しつつ、慎重に移行が行われてきた。現在の水準均衡方式は、1980年代半ばから採用されている。

 岩田氏は、

「一般世帯の有子世帯と生活保護世帯のひとり親の比較は、一見合理的です。でも、水準均衡方式は、そういう積み上げ方をしていません」

 という。水準均衡方式では、モデル世帯を設定して消費実態を比較することによって生活保護基準を設定し、そのモデル世帯から異なる構成の世帯へと展開して金額を定めている。所得ではなく消費、つまりフローを比較しているのは、生活保護においてはストックの形成(貯蓄)が前提とされないからだ。さらに岩田氏は、

「(水準均衡方式では)『ひとり親だから』『二人親だから』いくら、という決め方はしていません。それなのに、論理的にそういう(家族構成別の)比較ができるかどうか、根本的に疑問です」

 と述べた。

 岩田氏によれば、母子加算は生活保護制度が施行された直後に採用されていたマーケットバスケット方式の時代に設定された。マーケットバスケット方式は、生活保護世帯の消費が「米○kg、卵○個、下着○枚……」とマーケットの買い物カゴに品物を入れるように積み上げていき、その金額を合計する方式である。その後、水準均衡方式では、水準均衡の考え方のもとに母子加算の金額も設定されてきた。