美しいだけじゃなかった
植物が生きる場所としての鉢を作る難しさ

海外の「盆栽ブーム」で盆栽鉢まで大人気に!<br />日本人が忘れかけた「TOKONAME」の魅力笠井さんイチオシの作家・片岡秀美さんの仕事場。「釉薬の鉢がたくさん並んでいてぞくぞくします」

 盆栽愛好家の間では、鉢を「盆器」と呼ぶ。盆器は絵画で言えば額縁だ。上ものの植物を引き立たせるためのものだから、主張しすぎてはいけない。作家性と言っても、それはあくまで植物との兼ね合いで発揮されるべきものである。

「というわけでさりげなく、しかも美しく。脇役という意味では料理の器にも似ていますが、大きく違うのはそれが屋外で、長い年月の間、使うものだということ。盆栽の鉢は、植物にとっては“おうち”と同じですから、丈夫でなくてはいけませんし、通気性も排水性も良くないといけない。だから、釉薬を使っても内側はあくまで素焼きのままにして、植物が呼吸できるように焼くんです」

 TOKONAMEが海外で高く評価されるようになったのは、こうした鉢としての機能性を十分に担保しつつ、植物と調和する芸術性を備えていたからだと思います。海外でも、ホームセンターなどに行けば安価な中国産の鉢が大量に売られていますが、長期育成や展示会出展などに耐えるレベルではない。だから、盆栽へのこだわりが強い人ほど、美しい日本の鉢に憧れるんです」

──器に穴を空けたら鉢になるだろう、というほど単純ではない。モノを作るにはそれぞれコツがある、ということですね。

「盆栽の世界では植物と鉢はイーブンである、と言われています。しかし、そう言いながら、実際にはあまり鉢の作家さんが大事にされていない現状もある。たとえば、盆栽の展示会に行きますね。そうすると、植物や盆栽を作った人の名前は出ていますが、鉢に関する情報や作家さんの名前などはほとんどない。これも、私が変えたいと思っている点の一つです」

シリコンバレーで
鉢ビジネスをプレゼンしたら……。

 日本と海外では、好まれる鉢の色も微妙に違うそうだ。植物の種類もそれが育つ自然環境も違うのだから、考えてみれば当然のことかもしれない。

 ヨーロッパの草花は日本の植物よりも色鮮やかに見える。これは日本に比べて湿気が少なく光の反射具合が違うことによるものだ。鮮やかな植物の色に合わせてヨーロッパ、なかでもフランスでは最近、小さめの色鮮やかな鉢が人気だという。ヨーロッパで開かれる盆栽の展示会やイベントにも参加しながら、笠井さんはこうした海外市場の動向を探っていた。

「10月にはアメリカのシリコンバレーで投資家相手のプレゼンをするツアーに参加して、盆栽鉢ビジネスをアピールしてきました」

 プレゼンした相手は8人の事業家・投資家。そのうち7人が盆栽の愛好家もしくはよく知っている人、だった。海外の盆栽愛好家にはなぜか、ITビジネスに携わっている人やエンジニア系の人たちが多いそうだ。