かつて、日本の携帯電話業界で、“先進的”といえば、KDDIの新端末と相場が決まっていた。

 だが、昨今では、1年以上契約者数を増やし続け、「iPhone」の販売権獲得でさらに勢いに乗るソフトバンクにお株を奪われた。さらに、迷走を続けていたNTTドコモにも再評価の機運が高まっていることから、相対的にKDDIには“失速ムード”が漂う。

 そんななかで、日本の商習慣の常識を塗り替えてしまうかもしれない取り組みがスタートした。

 6月17日に、金融庁からインターネット銀行の営業免許を取得した「じぶん銀行」である。KDDIと三菱東京UFJ銀行が折半出資した新銀行は、専用ソフトを使って携帯電話から預金や振り込みなどができる。「開業5年目で340万口座、預金量1兆5000億円を目差す」(中井雅人・じぶん銀行社長)。

 肝は、“直接決済”にある。これまでのクレジットによる“決済代行”とは違い、独自にユーザーの利便性を高める工夫がなされているのだ。たとえば、紙の通帳は発行されないが、携帯電話の画面上に表示される“通帳機能”によって、当月の収支が一目瞭然になる。加えて、クレジット決済では1回の利用額に制限があったが、今後は高額商品も購入できる。

 父親世代には理解しにくいが、関係者によれば「今どきの若者は、携帯電話で洋服などを買う」のである。「じぶん銀行」は、いち早く、若者の消費行動に入り込み、習慣化させることを狙う。

 7月第3週の本格開店を前に、詳細なサービス内容は明かされていないが、ゲーム感覚で貯金できる“お小遣い帳機能”や、仲間同士で“割り勘ができる機能”などが搭載される予定だ。将来的には“キャッシング機能”も加わる。

 KDDIの小野寺正社長兼会長は、「ハンカチを除き、ポケットの中のものは、すべて携帯電話に取り込まれる」が持論だ。KDDIの契約者には、就職している若者が多いので、ブレークする可能性は十分にある。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 池冨 仁)