元々、日本の暮らしはエコシステムを取り入れたものだった。先月、伺った山形で米俵を製造している有限会社「田和楽」では材料となる稲わらを入手するために稲作をしているが、その傍らで大豆(山形はだだ茶豆という有名な在来大豆の産地だ)を育てている。これは特別なことではなく、大豆の根に含まれる窒素分が米を育てるための肥料になることを経験則的に知っていた先人の知恵だ。大豆で味噌をつくり、また納豆に加工した。それらで米を食べることで、日本の農村の風景、環境は維持されてきたのだ。

 問題はその循環、繋がりが絶たれたことにあるのだが……さて、下仁田納豆に話を戻そう。

下仁田納豆の味を決める「素材」と「加工」
均一に並ぶ豆は日本の職人技

 下仁田納豆の特筆すべき点はその味だ。納豆独特の粘りが強く、豆の旨味も一際である。元々、納豆は精進でも用いられてきたが、たしかに炊きたての御飯とあわせると肉料理に匹敵する満足感がある。

──納豆の味の違いはどういったところで出てくるのでしょうか?

「師匠から『9割は素材で決まる』と教えられました。まずは大豆──素材です。国産であることはもちろん、北海道産や地元群馬県産などいいものを選んでつかっています。ただし、この話には続きがあって『エジソンは99%の努力と1%のひらめき、と言ったがこれは努力が大事という意味じゃないんだぞ』としばらくして教えられました。『1%のひらめきがなければ製品にはならないという意味だ。他の部分を疎かにしてはもちろんいけない』と。納豆の味は素材で決まる部分は確かに大きいです。でも、他の工程も疎かにはできません」

納豆の室。温度と湿度を保つために必要以外の開け閉めは厳禁

 下仁田納豆のもう一つの特徴は、炭火をつかった昔ながらの室だ。七輪にのせたやかんからの蒸気で温度を管理するという昔ながらの方法とは反対に、大豆を煮る工程には新しい機器を使い緻密な時間と温度管理により、大豆特有のエグみやアクを抜く。発酵する前の柔らかく煮こまれた豆を試食させてもらったが、口に入れると余韻の長い甘さが広がった。

「この煮豆の賞味期限はせいぜい半日です。昔の人はこの煮豆をできるだけ長く食べたいと納豆に加工したのではないでしょうか」

──納豆は豆腐などと並んでスーパーなどの小売店からの値下げ圧力が高い商品として知られています。小売側からの価格要求などはありませんか?

「あることはあります。豆腐や納豆が価格競争に晒されるのは同じパッケージで売られているために、差別化がしづらいということがあると思います。ただ、うちは幸いなことにパッケージの形が他社のものと違いますので、比較的ラッキーだったのかな、と」

──パッケージの話が出ましたが、商品を購入して開封してみると、きれいに豆が並んでいることに驚きました。どういう秘密があるのでしょうか?