「疾病利得」という言葉がある。疾病による身体面や社会面でのプラス効果を指す。症状は肉体を苦しめるためだけに起こるのではない。無意識のうちに防御本能が働き、起こる反応でもある。たとえば、ひどい頭痛が続くと、ものが考えられなくなるが、脳の疲れがピークに達したときに出るサインと思えば、頭痛も素直に受け入れられる。うつから立ち直った人々は、こんな具合に病気そのものに意味を見出すことができるようになるという。

 そういえば、うつの体験者にインタビューすると、必ずといってよいほど出会う台詞がある。「うつになったおかげで、やっと◯◯の大切さ、意味がわかりました」という言葉だ。◯◯は「家族」のこともあるし、「健康」のこともある。もっと素朴に「生きていること」だったりもする。休職して家族との時間を過ごしたり、昔の友人に会ったりするうちに、自分の立場や価値、周囲との関係を再発見していくのだろう。松本さん流にいえば、彼らは「新しいストーリーを見出した人々」ということになる。

 もちろん、このストーリーは永遠不変のものではない。病気が治ったあとも、作っては壊し、作っては壊しの繰り返しが続く。大切なのは、今日を生きる面白さ、意味をつねに見出す能力なのかもしれない。

<後編に続く>

【今回のポイント】 ナラティヴ・セラピー(物語療法)

他人に対して自分を語ることで自己を再確認し、様々な問題を解決・解消しようとする心理療法。専門家の知識や技術が必要になるが、「そこまで本格的なものでなくても、飲み屋で上司や同僚を相手に語るだけで、効果はあります」と松本さん。