2007年、世界の先陣を切って12~13歳女性に対する4価のHPVワクチン定期接種(学校接種)の公費プログラムをスタートしたオーストラリアでは、開始後の4年間で21歳未満女性の尖圭コンジローマの患者数が約90%減少した(下の図参照)。  興味深いのは、半年~1年ほど遅れて同世代の男性の尖圭コンジローマの患者も激減したことだ。これを受けてオーストラリア政府は、10年に26歳以下の男性に対するHPVワクチン(4価)の使用を追加承認。13年から12~13歳の男性を対象に公費助成を開始し、14年から女性と同じく学校での定期接種が始まった。

  子宮頸がんへの効果はどうだろう。プログラム開始3年後の調査では、18歳未満の女性の前がん病変と、子宮頸がん検診では見つけにくい腺がん、それぞれの発症率低下が確認されている。現在、日本でも男性を対象とした4価ワクチンの臨床試験が進行中だ。

 HPV関連がんはHPV感染を予防することで発症を防ぐことができるが、社会全体で男女の感染率を下げなければ、感染・がん化リスクはいつまでも潜在する。とはいえ、「副反応の問題が曖昧なまま接種はできない」のは保護者の本音だ。

 ただし、ワクチンと副反応との因果関係をはっきりさせることは、極めて難しい。「リスクを踏まえた上で、副反応が生じた際はたらい回しにされず迅速に対応できる体制づくりや医療費の補償など社会で手厚く対応する仕組みを早急に整備するべきだ」と川名准教授は言う。

 ワクチン接種は一人一人がリスクを担い、社会全体を守るという目的がある。だからこそ、行政が方向性を示して中立的な情報を発信する責任を負い、被害者を社会全体で手厚く補償する必要があるのだ。

 ワクチン接種のリスクと便益の検討も重要だ。国内の副反応報告では、ワクチン接種の翌日から、発症時期は不明だが3ヵ月以上痛みや運動障害が続くような重い症状の報告数が全889万8150接種に対して176件。10万接種当たりの頻度は2件という計算になる。

 一方、子宮頸がん(円すい切除術の対象になる上皮内がんを含む)は、0~85歳の女性の年間の新規発症率は10万人当たり42・4人、直近の平均初産年齢の30歳前後では、25~29歳が10万人当たり77・7人、30~34歳で110・5人、35~39歳で107・2人である(国立がん研究センターがん対策情報センター)。 

日本では勧奨中止以降
激減する接種者数

 日本のワクチン行政は事あるたびにワクチン接種を中断し、再流行に慌てて再開するパターンを繰り返してきた。今回は「定期接種の中止はしないが、接種するよう努力してくれとは言いません」とずるい方法で逃げの一手。現時点でHPVワクチンを接種するか否かは、完全に個人の選択に委ねられている。

 欧米での10代前半女性の接種率は英国やデンマークで76%超、米国は約38%だ。一方、日本では勧奨中止以降、接種者数が激減している。

 日本では母親に一任しがちだが、男性も社会や子どもたちの将来に関わるべきだ。行政や、推進派・反対派の対立に振り回される前に家族で方針を話し合うべきだろう。