ラスベガス、デトロイトなどアメリカ各地を巡った後、東京に立ち寄った。
都内で自動車メーカー、自動車部品メーカー、金融機関、商社、コンサルティング企業、そして新聞・雑誌・ウェブサイトの編集部で意見交換をしていると「3Dプリンターカー、テレビで観ました。凄いですね」という話がよく出た。
ところが、そうした日本の人たちの3Dプリンターカーに関する認識は、筆者がアメリカ現地で取材した事実と大きく異なる場合がほとんどだった。
そこで本稿では、そうした情報のミスマッチを修正してみたい。
前代未聞の演出にクルマ業界驚愕
国際モーターショー本会場で工作機械を稼働
2015年1月12日、米ミシガン州デトロイトのCOBOセンター。報道陣に公開された北米国際自動車ショー(通称:デトロイトショー)の本会場で異彩を放ったのが、ローカルモータースの展示スペースだった。
GMの向い、日産とマツダの隣に「小さな工場」が出現した。そこには大型3DプリンターとNC(数値制御型)の切削加工機が並んだのだ。華やかな雰囲気のモーターショー会場のド真ん中で、本来は「クルマの裏方」である工作機械が正々堂々と実動するとは…。
3Dプリンターカー(正式名称:3Dプリンテッドカー)の制作時間は、最も手間のかかるボディ本体に40~44時間。その他、約50個のパーツをプリントし、ステアリング、ペダル等の金属部品等と組み付けを行なう。現在、既成の自動車部品はルノー関連のメーカー製が多い。
同ブースにフロントバンパーが単体で展示されていたので、展示責任者から許可を得て、両手で抱えてみた。見た目は軽そうだが、実際は結構重い。材料はオモチャ等でも利用されるABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂に約20%のカーボンを融合させたもの。強度は鉄やアルミに匹敵する。プロトタイプの3Dプリンターカーでは、ABS樹脂素材を摂氏225~250度で溶解し、1時間あたり36ポンド(約16キロ)を使用。プリントは合計で212階層ある。
同日の午後4時過ぎ、ショー本会場1階で、ローカルモータースの記者会見が行われた。3Dプリンターを活用した小規模な製造施設「マイクロファクトリー」を世界各地で展開するという。「マイクロファクトリー」は大都市の100マイル(約160km)圏内に建設し、それぞれ約100人が就業。自動車メーカーが現在行っている大型製造拠点型と比較して、トータルの物流コストは97%減少するという(なお、同社の共同設立者でCEOのジョン・ロジャース氏への囲みインタビューの模様は本稿後半で紹介する)。