ドラゴンボールの「ホイポイカプセル」は作れる?東大教授が「近いものを作っています」写真はイメージです Photo:PIXTA

3Dプリンターの誕生により物作りの概念が変わった昨今。技術が進化し素材が多様化することによって、どんどん使用用途が広がっている。そんな中、『ドラゴンボール』に登場する、ポーンと投げると乗り物や家になる「ホイポイカプセル」に近いものを作っているという川原圭博教授を囲み、東大の教授陣が「イノベーション」について語った。本稿は、瀧口友里奈・編著『東大教授が語り合う10の未来予測』(大和書房)の一部を抜粋・編集したものです。

「ホイポイカプセル」は
作ることができる!?

対談参加者(※当時の肩書き)
瀧口友里奈(経済キャスター)、川原圭博(東京大学大学院 工学系研究科 電気工学専攻)、加藤真平(東京大学大学院 情報理工学系研究科 コンピュータ科学専攻)、江崎浩(東京大学大学院 情報理工学系研究科 創造情報学専攻 デジタル庁 初代Chief Architect)、黒田忠広(東京大学大学院 工学系研究科 附属システムデザイン研究センター)

瀧口 川原先生が挙げられたテーマ「“ホイポイカプセル”は作ることができる」について伺っていきます。川原先生はホイポイカプセルを作っているということですか。

川原 はい。30歳以上の人しかわからないかもしれませんが、『ドラゴンボール(*1)』という作品の中で、ポーンと投げると乗り物になったり、家になったりするカプセルがあるんです。それに近いものを今作っています。例えば、空気を入れるような柔らかい材料を使って、強度を保った構造を作る。そして、それにモーターをつければ乗り物になるんです。車は鉄で作るのが常識かもしれませんが、柔らかくて、ぶつかったらへこんでくれるようなもの。人に当たっても怪我をしないようなものが作れると、街中で歩行者と一緒に走っていても危険は少なくなりますよね。

*1[ドラゴンボール]
1984年から1995年まで「週刊少年ジャンプ」に連載されていた鳥山明の大ヒット漫画。「ホイポイカプセル」は、手のひらサイズのカプセルを地面に向かって投げると中からさまざまな物品が飛び出すというアイテムで、これにより大きな住居すらかんたんに持ち運びができる、とされている。

加藤 それは、畳むとどれくらいの大きさになるんですか。

川原 市販のリュックサックに入るぐらいの大きさになります。素材も軽くて強いものとか、瞬時に力を出せるものなどがあるんですが、実はそれらは市販のもので、別の用途に使われているものを流用しています。その意味では、すぐに実用化できると思います。

瀧口 それらの素材は、本来どんなものに使われているんですか。

川原 例えば、空気を入れると板状になるような素材です。これは体育のマットなどで使われています。あとは、カヌーやサップ(スタンドアップパドル)などに使われている素材です。

江崎 人工衛星のパラボラアンテナ(*2)なども、打ち上げるときは折り畳んであって、宇宙空間に行ってから広げて展開するんですよね。

*2[パラボラアンテナ]
「パラボラ」とは「放物面」という意味で、中華鍋やお椀をひっくり返したような放物面反射器を持つアンテナのこと。一般的には衛星放送の電波など、短い周波数の電波を受信するために使われる。

黒田 日本では、その折り畳み方がたくさん考案されてきたみたいですね。

川原 そうですね。折り紙のような折り畳み技術と、最初にお話ししたプリンターで作る回路はとても相性がいいんです。電子回路や太陽光パネルなどもプリンターで作れるので、二次元で作ったものを折り紙のように折って三次元にして使うというのが、今、ホットな研究分野です。

黒田 つまり「車のボディーは鉄でなくてはいけない」と思っていると、もうそれ以上の発展は見込めない。でも「柔らかくてもいいじゃないか」と思うと新しいアイデアが生まれてくる。そして「その最適な素材が体育館にあった」というのは、面白いですよね。