これまで2回のコラムを通じて「バーナード・マドフによる歴史的サギ事件」を採り上げ、ヘッジファンドを装った架空投資サギ対策に関する基本的な考え方を紹介した。

 この事件では、プロの投資家までもがマドフの「元NASDAQ証券取引所会長」という経歴や「高名な慈善家」という仮面に騙されて、リスク分析を誤ってしまった。ヘッジファンドを名乗る架空投資サギにより、実に約6480億ドル(約64.8兆円)にも及ぶ巨額の損失が発生したのだ。

 しかし、この「マドフ事件」はあくまでも“架空投資サギ”であり、マドフ・ファンドはフタを空ければ、まともなヘッジファンドの体をなしていなかった。

 ところが世の中には、一見まともな組織形態をとりながらも、違法スレスレの投資手法で荒稼ぎを行なう「れっきとしたヘッジファンド」も少なくないのが現状なのだ。

 そこで今回は、ヘッジファンドが証券サギによって利益を上げているケースが顕著になっている現状において、彼らが行なう合法的な投資戦略に潜む“違法行為”に焦点を当てよう。

 後述するが、実はこのような投資行為が、「世界的な金融危機を招いたリーマンショックの引き鉄を引いた」とも言われている。

 ようやくマーケットに「底打ち感」が漂い始めた現在、「再び動き出しつつある」と言われるヘッジファンド。そんな彼らへ投資するにあたって、投資家が注意すべきポイントは、実に多いのである。

「合法と違法スレスレ」の投資で
収益を上げるヘッジファンドも

 そもそもヘッジファンドは、「市場の非効率性」に注目し、β(ベータ)を超えるリターン、すなわちα(アルファ)を狙う投資戦略を採用する。

 ごく単純に言えば、“α”とは投資におけるベンチマークに対する超過収益のこと、“β”とは市場の価格変動によるリスクの大きさのことだ。

 しかし、資本市場の効率性が限りなく高い場合、市場には超過リターン、すなわちα(アルファ)は存在せず、リスクとリターンの関係は一義的に決定されるはずである。言い換えれば、資本市場にはβ(ベータ)しか存在しない。

 よって、資本市場が成熟するにつれ、αを得る機会は限りなく減少してしまう。そのため、ヘッジファンドは必然的に「合法と違法のスレスレのところ」で収益を上げようと躍起になるわけだ。