定年退職が視野に入ってきた50代のオヤジの中にも、確定拠出年金(以下、DC)の資金をほったらかしにして、何で運用するのか指定していない人がいるのではないでしょうか? 理由はいろいろ考えられます。おそらく仕事や家庭のことで忙しい、興味がない、わからないといった理由が大半でしょう。では、何で運用するか指定しなかった結果として、皆さんの掛金がどこに向かっているのかご存知でしょうか?何となく想像できるかもしれませんが、そう、預金や保険商品などの元本確保型商品なのです。これに違和感のある人はいないでしょう。とはいえ1年に1回届くDCのレポートを見ると、元本確保型商品にお金を預けていると、元本割れはしていないけれど、ほとんど増えていないと痛感する人も多いのではないでしょうか? 実は、国はこの「増えていない」点を非常に懸念しており、近い将来、何で運用するか指定しなかった場合に自動的に掛金が投資される金融商品(以下、デフォルト商品)を、元本確保型商品ではなくリスクを取って運用する投資信託とする法令の導入を検討しています。つまり、何も考えていない人のDCのお金は、自動的にリスクを取って運用されるということです。もちろん、元本割れリスクにもさらされます。オヤジの皆さんはこれについてどう思いますか?リスクを取ることに対してネガティブに捉える人が多いかもしれませんが、私は、これはとても前向きな制度改革だと考えます。今日はその理由について説明します。
顕在化する「運用しないリスク」
皆さんの多くは最近の円安による価格上昇、つまりインフレを実感している人が多いと思います。特に10月末に日本銀行の黒田バズーカの2発目が発射されて以降、米ドル円相場は115円を超えて円安になる局面に入り、その傾向が強まっているように思います。円安は輸入価格の上昇を通じて国内物価の上昇につながります。このため、アベノミクスによって賃金や賞与が多少増えたとしても、それ以上に物価が上がっているので、暮らしが楽にならないと実感している人も多いと思います。でも、まだ働いているオヤジの皆さんは平均的には多少なりとも賃金や賞与で調整されているため、実は物価上昇の痛みは緩和されているのです。一方、年金生活者は、もう働いていないのですから、賃金などでの調整はありません。物価上昇の影響をもろに受けてしまいます。もともと公的年金には物価上昇に合わせて支給額を引き上げる物価スライド機能があるのですが、少子高齢化とのバランスを取るために、完全には物価上昇についていかない仕組み(約1%物価上昇についていけない仕組み)が2004年に導入されました。また、ほとんどの場合、企業年金や個人年金には物価スライド機能がありませんので、年金生活者が生活を守るには自らが保有する資産をインフレに連動する形にしないと、実質的な生活水準は下がっていくことになります。この「資産をインフレに連動する形にする」というのがまさに資産運用をするということなのです。このため、将来インフレが想定される今の局面において、国が国民生活を守るためにも資産運用をしてもらいたい、という思惑があるのでしょう。