豊饒な漁場で育まれた海の幸が水揚げされ、国内でも有数の海洋産物の宝庫である神奈川県平塚市・平塚漁港。サバやイワシ、アジなど定置網漁業、シラス船曳網漁業やヒラメ、イセエビを獲る刺し網が盛んだ。
こんな国内でも有数の海洋生物の宝庫だが、筆者はその事実をこの度、初めて知った。しかも、残念なことに当の平塚市民でさえ、地元に漁港があることを知らない人が多いというのだから驚きだ。
前回は、そんな平塚市民さえ知らない平塚漁港の認知度アップに奮闘する平塚市漁業協同組合の数々の作戦を紹介した。しかし漁港はそれに満足せず、とんでもない「ビッグなプロジェクト」を開始した。
オープン直後から大盛況!
平塚漁港直営の食堂が誕生
漁協では「地魚の消費拡大の決め手」として、目指していたある課題があった。それが「平塚の魚の魅力を発信する拠点となる施設」を設けること。地元の人々が気軽に地魚に親しめる『直営の飲食店』が望まれていたのだ。
また「低利用魚」を使った加工品の拡充も課題のひとつだった。平塚でメインとなるのは定置網漁。魚種が豊富であるがゆえに、網には、じつにさまざまな魚や、小魚もかかる。知名度が低く一般的ではない、あるいはサイズが小さすぎて規格外という理由から、市場の流通にのらないために値がつかない魚、いわゆる「低利用魚」の付加価値を高めることが漁業活性化の起爆剤として期待されていた。
これまでも漁協はシイラやソウダカツオ、カタクチイワシといった低利用魚を利用した商品開発を手掛けていた。そのための加工施設が必要だったのだ。
その夢が、ついに昨年実現された。漁協の「平塚漁港で水揚げされる魚の販路拡大と新商品開発による地産地消促進事業」が、農水省の6次産業化事業認定を受け、その一環として2014年4月、漁協が所有する敷地内に平塚の魚を利用した飲食店兼加工場施設「平塚漁港の食堂」が完成した。
場所は漁協にほど近い、茅ヶ崎方面から大磯へ向かう国道134号線の側道。組合員の中には「あのあたりじゃあ、ファミレスに行く人がほとんど。食堂なんてお客さんが本当に来るのか?」と心配する声もあった。
しかし、その不安はあっさりと覆された。
食堂はオープン直後からいきなりの大盛況。休日には長蛇の列、平日もほぼ満席。メディアにも取り上げられ、開店前の時点で100人待ちとなる事態まで起こり、あまりの繁盛ぶりに食材が追い付かず、夜の営業は当面見合わせになったほどだ。
ここまでの大繁盛になったのは、平塚の魚の美味しさに加えて、「平塚漁港の食堂」が「とんでもない」食堂だったからだ。