「日本で人口減少が始まった」と言われて久しい。先の国勢調査によると、足もとの日本の人口は約1億2806万人。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によると、この数が2030年に1億1522万人、さらに2060年には8674万人まで減ると予測されている。世間では、少子化、高齢化などの現象について、様々な角度から分析が行われている。しかし、全ての人が人口減少について、正しく理解しているわけではない。なぜ人口減少が起きるのか。その真のリスクとは何なのか。人口減少に詳しい松谷明彦・政策研究大学院大学名誉教授が詳しく解説する。(まとめ/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

「これまで」と「これから」では違う
誤解されている人口減少社会の実態

日本劣化は避けられるか?<br />「人口減少社会」の誤解と真のリスク人口減少の原因としては少子化の影響はまだ少ない?

 少子化、高齢化、人口減少といった現象については、数多くの分析や提言が行われています。 ただ私から見れば、それらは必ずしも正しい議論ではない。誤解されて語られている部分も多いのです。人口減少はなぜ起きるのか――。改めて考えてみましょう。

 そもそも西欧諸国を見ると、将来のある時期まで高齢化は進むもののその変化は緩やかで、さらに人口については、多くの国でむしろ増えていく傾向にあります。だから人口は、さほどの関心事ではありません。

日本劣化は避けられるか?<br />「人口減少社会」の誤解と真のリスクまつたに・あきひこ/1945年生まれ。経済学者。1969年東京大学経済学部経済学科卒、大蔵省入省、主計局調査課長、主計局主計官、大臣官房審議官等を歴任、97年大蔵省辞職、政策研究大学院大学教授、2011年同名誉教授。2010年国際都市研究学院理事長。『「人口減少経済」の新しい公式』『人口流動の地方再生学』(共に日本経済新聞社)、『人口減少時代の大都市経済 - 価値転換への選択』(東洋経済新報社)、『東京劣化』(PHP新書)など著書多数

 このあたりも誤解している人が多いですが、実は日本は大幅な人口減少に見舞われる珍しい国なのです。それはなぜか。日本には人口減少をもたらす独特な背景があるのです。

 それを考える際にまず理解すべきことは、一口に「人口減少社会」と言っても、「これまで」と「これから」、あるいは「少し先から」ではパターンが違うということです。そこを整理しないと、人口減少の真の原因と対策は見えません。

 まず「これまで」の人口減少ですが、主因は多くの人が思っているような「少子化」ではありません。主たる原因は「死亡者の急増」なのです。日本が戦争に向かって突き進んでいた1920~40年頃、時の軍事政府は兵士を増やそうと「産めよ、殖やせよ」を国民に強く奨励しました。

 そのときのベビーブームで生まれた人たちが、1980年代後半以降、死亡年齢に達し、年を追って大量に亡くなっていることで、人口が減少しているのです。むろん、人口の増減は死亡者数と出生者数の綱引きですから、少子化の進行も関係してはいますが、その影響はまだそれほど大きくはありません。